2020 Fiscal Year Research-status Report
日本統治下の台湾におけるラジオ文化に関する歴史社会学的研究
Project/Area Number |
19K02141
|
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
井川 充雄 立教大学, 社会学部, 教授 (00283333)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ラジオ / 植民地 / 思想戦 / 音文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度においては、前年に引き続き、日本統治時代の台湾におけるラジオ放送の聴取者に関する分析を行った。 近年、過去の産業や文化を現代に伝える遺構の一つとして注目されているラジオ塔に着眼し、日本統治下の台湾におけるラジオ聴取のあり方について考察した。日本国内では1930年に大阪・天王寺公園に設置されたものが嚆矢であると考えられている。また、戦争の進行とともに、満洲や、ジャカルタ、広東といった日本が占領した地域でラジオ塔が設置され、住民への宣撫活動が実施されたことが知られている。 台湾では、「二二八和平公園ラジオ塔」(台北市、1934年建塔)、「台中公園ラジオ塔」(台中市、建塔年不明)、「屏東公園ラジオ塔」(屏東市、1939年建塔)の3基が現存している。設置後には、ラジオ塔を取り囲むように、ラジオ体操の会が実施されるなど、当時設置されたラジオ塔は、当初はラジオ放送を宣伝し契約者を増やすための方策であったと考えられる。しかし、1940年には全島市郡にラジオ塔の設置を求める論説が雑誌に出るなど、日中戦争の進行を受け、ラジオ契約者の比率の少なかった「本島人」に、半ば強制的にラジオ放送を聴かせる手段として捉えられていたと考えられる。つまり、「思想戦」を勝ち抜くためにラジオ放送を活用し、ラジオの聴取契約をしていない者や家庭にいない者にも、政府や軍部の方針を周知徹底するためにラジオ塔の設置が叫ばれるようになったである。ただ、その後は、地域の集会所にラジオ受信機が設置されたり、国内の隣組にあたる「奉公班」などを活用した集団的聴取が検討された。戦況が悪化する中で、より効率的な方策が用いられたため、ラジオ塔の役割は後退したと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度においては、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、当初予定していた台湾ならびにアメリカにおける資料収集を実施することができなかった。そのため、これまでに収集した資料の分析・考察に注力したが、「やや遅れている」と判断せざるを得ない。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの成果を踏まえ、さらに台湾放送協会の成り立ちから解散までの過程や、「東亜放送網」の形成とその機能などについての、資料収集ならびに考察を行う。 本研究では、できる限り第一次資料にあたり、実証的に諸問題を解明することを主眼としているが、今後も、台湾やアメリカ等、海外に出張することが困難な場合は、各国の公文書館等でデジタル化され公開されている資料の収集に力を入れ得る。 これによって、ラジオによる文化的統合(同化政策)と新たな音文化の構築の過程を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
アメリカの公文書館、台湾の各図書館・史料館等での資料収集を計画していたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、海外渡航できず、旅費を支出しなかった。また、関係者に対するインタビューを計画していたが、実施に至らず、そのための人件費等を支出しなかった。また、研究成果発表のための国内旅費も使用しなかった。これらについては、2021年度に実施し、支出する予定である。また、本年度中に、本研究テーマに関する図書を刊行する予定であり、その出版費用の一部を支出する。
|