2022 Fiscal Year Research-status Report
数値指標中心の教育研究評価と新公共経営(NPM)の関係に関する制度論的研究
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19K02144
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
佐藤 郁哉 同志社大学, 商学部, 教授 (00187171)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 監査文化 / 業績評価 / 数値指標 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、教育研究評価における数値指標が世界的規模で普及していった背景に加えて、それらの指標をめぐる誤解や誤用を取りあげ、それらが生じてくる社会的背景とその正負両面の影響について明らかにしていくことを目指した。 今年度実施した研究の成果の一部については、以下の一連の論文として発表されてきた(いずれも単著)。 「プッシュボタン式統計調査の効用と限界(1):3種類の不可解なグラフと改善提案の事例から」『同志社商学』第74巻第1号、2022年6月、プッシュボタン式統計調査の効用と限界(2):神と悪魔はコンマ以下に宿る?」『同志社商学』第74巻第3号、2022年11月、「シラバスからSyllabusへ:研究方法論(定性)の事例を中心にして」『同志社商学』第74巻第4・5号、2023年1月 また、研究の副産物として、以下の翻訳書が刊行された(2022年7月)。デニス・トゥーリッシュ(佐藤郁哉訳)『経営学の危機:詐術、欺瞞、無意味な研究』白桃書房。同書では、英国、米国、オーストラリア等の高等教育機関に在籍する研究者たちが、研究上のアウトプットだけでなく助成金収入などを含む業績評価の「監査」の圧力にさらされている姿が活写されている。本書の訳出は、今後の比較研究を進めて行く上で数々の重要な示唆を与えてくれるものであった。 さらに、2023年には、本研究の課題と密接な関連がある問題について論じた次の翻訳書の刊行が予定されている(2023年5月)。マッツ・アルベッソン=ヨルゲン・サンドバーグ共著(佐藤郁哉訳)『リサーチ・クエスチョンの作り方と育て方:論文刊行ゲームを越えて』白桃書房。同書では、監査文化の進展にともなう研究成果(特に論文)の規格化や狭隘化の傾向およびその背景について綿密な検討がなされている。本書の訳出もまた、今後の比較研究を進めて行く上で重要な手がかりを与えてくれるものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究の検討およびウェブから入手できる情報を含む文書資料の検討は比較的順調に進展しており、また【研究実績の概要】に示したように、その成果は着実に成果物として結実している。しかしながら、コロナ禍による移動制限もあって、当初予定していた、海外での聞き取りと文書資料の収集を含む一次情報の収集は未だに実現ができていない。 この点は、構造化インタビューを具体的な研究方法の柱の1つとしていた本研究に関してはきわめて遺憾なことであるが、その分、文献研究を通して研究の枠組みと基本的な概念の整理、そしてまた、英国、米国、オーストラリア等の「監査文化」の意図せざる結果や各種のランキング、格付け、業績評価が高等教育機関とその構成員に対して与えてきた影響を主たるテーマとする研究書の訳出の作業を通して、一定の広がりと深さを持つ比較研究の足がかりとなる情報が得られているとも言える。この点は、計画段階での想定を超える進展であると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】でも述べたように、コロナ禍による移動制限は、一次資料の収集を著しく困難なものにしている。また、2022年2月以来のロシアのウクライナ侵略は、この点に関する見通しをさらに不透明なものにしていた。後者の問題についてはいまだに解決の見込みが立っていないが、前者については大幅に緩和されており、また、補助期間の延長申請が認められたことから、交付申請時点で想定していた「構造化インタビューと広範な資料調査」(交付申請書の記載より)をより本格的におこなうことが可能になったと言える。いずれにせよ、各種の流動的な状況を慎重に見きわめた上で、今後の展開については考慮していき、また、最終年度でもあり研究成果の取りまとめに注力していくことを期したい。
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Causes of Carryover |
【研究実績の概要】および【現在までの進捗状況】でも述べたように、次年度使用額が生じた主な理由は、当初予定していた現地におもむいての「構造化インタビュー」および広範な一次資料の収集がコロナ禍による移動制限にともなってきわめて困難になってしまったことによる。ロシアのウクライナ侵略による国際的な移動の制約もあいまって今後の進展には予断が許されない面があるが、【今後の研究の推進方策】でも述べたように、補助期間の延長申請が認められたことも踏まえて、情勢の変化を慎重に見きわめつつ、2023年度に繰り越して使用可能な助成金を現地調査の可能性を見きわめた上で、当初想定していた現地取材のための旅費にあてていきたいと考えている。
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Research Products
(3 results)