2019 Fiscal Year Research-status Report
「時間の社会学」の現代的創成―公理論化と学説・応用研究を総合した社会的時間の解明
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19K02145
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
高橋 顕也 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (60739796)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅村 麦生 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD) (70758557)
吉田 耕平 首都大学東京, 人文科学研究科, 客員研究員 (90706748)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 時間の社会学 / 社会学理論 / 社会学史 / 公理論化 / 出来事 / 社会的記憶 / 未来構想 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の1年度目である2020年度は、社会学的時間概念、および社会学が主題とする社会的時間の理論的・学説的・経験的解明を行い、現代的かつ総合的な「時間の社会学」を創成することを目指すという目標のもと、主に(1)社会的時間概念の公理論化の予備研究と、(2)「時間の社会学」に関わる学説研究(学説史、概念史研究を含む)を行った。 まず、時間が社会学のなかでどのように論じられてきたのかをたどり直す作業が行われた。公理論化および学説研究の対象としては、ソローキンとマートン、見田宗介(真木悠介)、ニクラス・ルーマンによって展開された社会学的システム理論、社会進化論、また、フランス社会学における時間論としてデュルケーム学派のモーリス・アルヴァックスの集合的記憶論などの諸説を取り上げた。 特に「社会的時間」の概念構成、時間意識と価値意識の連関、時間―空間―象徴のカテゴリー関係、「進歩」と「退歩」の概念史について検討した。 「進歩」と「退歩」の概念史に関して、18世紀の半ば以降、〈無際限に続く進歩〉の観念が歴史的な時間の観念の典型となった、としばしば言われる。しかし20世紀に書かれた進歩観念史研究は、20世紀初頭まで歴史的な時間の観念はもっと多様だった(20世紀初頭以降、無際限に続く進歩の観念が広がった)ことを示唆していると判明した。 また、学説研究に関連して、「待機」という時間にかかわる行為への社会学的アプローチについて検討がなされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記、(1)社会的時間概念の公理論化の予備研究と、(2)「時間の社会学」に関わる学説研究について、ある程度研究を進めることができた。現時点での研究成果については、第2回(2019年度第1回)「社会の時間」研究会「『時間の社会学』の今日的課題」で報告を行うとともに、第92回日本社会学会大会で研究代表者がコーディネーターを務めるテーマセッション「『時間の社会学』の現代的展開」を実施し報告を行った。また「時間の社会学」に関わる隣接領域からの知見を得るため、第3回(2019年度第2回)「社会の時間」研究会「哲学・美学の時間論と『時間の社会学』の接点」を企画し、外部から招聘した若手研究者による講演と、科研メンバーとの討論を行った。以下、個別の研究内容ごとに述べる。 1)19世紀と20世紀の英米思想を対象として20世紀に書かれた進歩観念史の研究をレビューすることで、歴史的な時間の観念には①非発展、②循環、③一方向という複数の典型があること、そして③の類型の中の〈進歩〉と〈退歩〉それぞれが、19世紀から20世紀にかけていかなる変化を辿ったかを検討した。 2)デュルケーム、ベルクソン、アルヴァックスらの時間論の学史・理論的検討を通じて、時間・空間・象徴のカテゴリー関係について考察し、空間論・象徴論と時間論を接合する必要性を明らかにした。 3)「待機」という時間にかかわる行為について、国際シンポジウムにて報告し、国内外の専門家の意見を踏まえつつ論文化するところまで達成した。 4)Sorokin & Merton (1937) による社会的時間(social time)概念に相当する公理系を解明し、それに基づき、見田宗介による「時間の4類型」論を公理論化によって整理した。これにより、社会学的時間概念も、集合論の語彙を用いて公理論化が可能であることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画としては、まず、1年度目の研究会および学会大会テーマセッションでの報告をもとに、学術誌での特集を企画しており、2020年度前半に公刊される予定である。2年度目の研究としては、ひきつづき(1)社会的時間概念の公理論化の予備研究と、(2)「時間の社会学」に関わる学説研究を進めるとともに、(3)「時間の社会学」の応用研究に着手する。研究対象としては、現象学的社会学や批判理論における社会的時間の概念、社会的記憶や未来構想における時間意識、災害と移動における時間経験を想定している。また、科研メンバー内外の参加者による研究会の実施と、研究論集の企画を予定している。以下、個別の研究内容ごとに述べる。 1)今後の問題として浮上するのは、19世紀から20世紀の〈進歩〉と〈退歩〉の変化は、何ゆえに生じたのか。このような変化は、他の観念に対してどのような影響を与えるのか。以上の二点である。本科研の二年目は、これらの歴史的な時間の観念の変容が「秩序」形成の観念の変容に与えた影響を考察する。 2)アルヴァックス以外のデュルケーム学派や、ノルベルト・エリアスの時間論にも検討の範囲を広げ、空間論・象徴論の観点からの時間研究をさらに発展させる予定である。 3)時間の社会学史については、2020年度中に論文化することを目指す。社会学的「待機」論については、ここまでのところでは待機とは行為と時間という2つの視角からのアプローチが必要であることを明らかにし、そして行為という視角から待機を論じるところまで研究を進めた。そのため、今後は時間と待機との関わりを集中的に論じる。 4)公理論化については、ルーマンによる社会学的システム理論を対象とする。その際、時間概念のみならず、システム、メディア、形式といった基礎概念もともに公理論化の対象とし、メディアとしての時間という理論独自の時間概念の数理的構造を解明する。
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Causes of Carryover |
2019年度に予定していた海外調査を1件、延期したことにより、次年度使用額が生じた。この分は、現時点では、2020年度に使用する予定である。ただし、COVID-19の世界的流行を受け、2021年度に延期する可能性についてもすでに検討している。
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Research Products
(19 results)