2021 Fiscal Year Research-status Report
「平成の大合併」段階の都市から農山村への人口還流と移住に関する社会学的研究
Project/Area Number |
19K02147
|
Research Institution | The University of Shimane |
Principal Investigator |
宮下 聖史 島根県立大学, 地域政策学部, 准教授 (70755511)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相川 陽一 長野大学, 環境ツーリズム学部, 教授 (90712133)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 地域おこし協力隊 / ライフキャリア / 地域協働 / 時間軸と空間軸 / 人口移動 / 田園回帰 / ポスト成長期の社会意識 / 主体形成論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究実績は以下の通りである。 1)継続して取り組んでいる長野県内の地域おこし協力隊と市町村を対象とした質問紙調査の分析を引き続いて実施した。とりわけ今回は、調査票の原票に立ち戻りデータのチェックと包括的なクロス集計表の作成を行うことができた。 2)上記の質問紙調査の結果を活用し、そのなかで地域おこし協力隊の「ライフキャリア」と「地域協働」の2点に焦点化した論文を執筆した。ローカル志向が進む社会変容をマクロな時間軸と空間軸の観点からも捉え直すと同時に、今回の調査の特長でもある地域おこし協力隊員と自治体調査の両方から地域協働の実態に迫ることができた。 3)地域間の「人口移動(移動しないという点も含めて)の実態について、最新の統計データを活用して分析を行った。そのうえで地域・自治体単位の合計特殊出生率と合わせて、全体社会と地域社会の相互作用を把握する視点を打ち出した。加えて、かかる人口移動の実態に関わる社会学的な知見をレビューし、都心回帰、田園回帰、地元志向が同時に見られること、その社会背景として「標準的ライフスタイル」の解体や価値観の変化を論じた。これらの研究によって、本科研費にて一貫して位置付けてきた「ポスト成長期」の社会意識の変容、とりわけそれをライフスタイルに関わる意識の変容と多様性を統一的・総合的に把握することの論点整理を行うことができた。 4)主なフィールドとしている長野県と島根県の現状について、適宜、情報交換を行い、今後の展開について見通しを得ることができた。 5)今回の研究を地域社会研究の方法としての構造分析を応用する試みのなかに位置づけ、俯瞰的に考察した。とりわけ地域社会の担い手像、主体形成論に関わる議論を進展させることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ここまでの研究によって、共同研究の対象地域であった長野県に加え、島根県での着実な調査を行うための人的ネットワークの構築や情報収集を進めることができた。さらに随時開催した研究会での議論を通じて、地域おこし協力隊員をはじめとした地方・農山村を担う人びとのライフキャリアや地域協働に関わる論点の洗練化を図ってきた。そのうえで2021年度は、以下の点において研究の進展を見ることができた。 まずは、マクロ的な視点から時間軸と空間軸を切り口とした社会形成の特質を分析し、かつ人びとのライフキャリアやライフスタイルの変容から、ポスト成長期の社会意識の多様化を見通したこと、さらに生活の場としての地域社会の選択に関わる視点を導き出したことである。加えて、かかる価値観の多様化に伴う地域生活の意味に関わる分析軸を試論的に提示し、地域的諸関係のあり方やガバナンスの視点から、これまで課題としてあげていた「豊かな社会生活」の内実を描き出していく枠組みを得ることができた。 長野県の地域おこし協力隊と自治体担当者を対象にした質問紙調査については継続的に分析を行っているところであるが、2021年度に整理した包括的なデータをここまでに得られた知見のなかに文脈的に位置づけることで一連の調査の分析の集大成としたい。またコロナ禍での地方・農山村への人口還流の実態や新たなフィールドとした島根県での量的・質的調査の実施等を踏まえて、研究成果の体系化を図っていきたいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の課題に取り組みたいと考えている。 1)長野県の地域おこし協力隊の質問紙調査のさらなる分析を行い、これまで議論を深めてきた論点に文脈的に位置づけ、取りまとめを行う。 2)上記の結果を踏まえたうえで、これまでに整理してきた論点、すなわちライフキャリアや地域協働の視点からの主体形成や「豊かな社会生活」の内実を掘り下げるためのヒアリング調査を行う。 3)長野県の調査との比較研究、またコロナ禍による移住のプッシュ要因も考慮しながら、島根県での量的、質的調査を実施する。 4)市町村、あるいは都道府県を超えた広域スケールでの地域おこし協力隊の交流や連携、サポートの実態について、各種資料の収集や分析、ヒアリング調査などを通じて明らかにする。 以上をもって、地域おこし協力隊に関わるマルチスケールからの実態把握と、個々人のライフキャリアから見た地域と暮らしの諸関係の社会的意味の概念化を行っていきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
2021年度は、長野大学にて対面での共同作業や長野県内でのヒアリング、加えて研究代表者が所属する島根県立大学を拠点として、島根県内で地域おこし協力隊の推進実務に携わる専門家を加えた研究会の実施等を計画していた。しかしながら、2021年度は新型コロナウイルス感染症の全国的な感染拡大が続き、対面での共同作業や現地調査の実施に影響を受けた。またコロナ禍のもとでの人口移動・移住に関わる新たな論点も浮上することになった。このような状況下において、オンラインでの代替措置を取ったり、既存データの集計と文献資料の渉猟、それを通じて論点を深め論文を執筆したりすることが中心となり、研究会のための出張や調査費用において次年度使用が生じることとなった。次年度は、同感染症の流行状況を慎重に見定めつつ、今後の研究計画に即した質問紙調査やヒアリング、研究会の実施等にて研究費の効果的な執行を行っていきたい。
|