2022 Fiscal Year Research-status Report
技能実習生制度の入口及び出口政策のグランドデザイン
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19K02152
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Research Institution | Hiroshima Bunkyo University |
Principal Investigator |
岩下 康子 広島文教大学, 人間科学部, 准教授 (10733842)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 技能実習制度 / 帰国 / ベトナム / キャリア / 日本語教育 / 技能移転 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究に際し、科学研究費の延長を認めていただいたことに感謝申し上げる。COVID-19 の影響が弱まり、条件付きではあるが、海外渡航が可能となった。2022年度は、夏季休暇を利用して、ベトナムに渡航することができ、およそ3年ぶりのフィールドワークを実施する運びとなった。 日本では感染拡大が止まらない中での渡航となったが、ベトナムに到着すると、感染を跳ねのけるような活気と生命力に満ちた人々の行動力と町の賑わいを見せつけられ、驚かされた。感染の影響は当然大きかったようだが、ロックダウンの際には、完全に外部と遮断する徹底ぶりと、一度緩和した後は、一気に開放が進むというメリハリを国民全体が受け入れて動いている、という話を聞いた。人々が苦境の中でも逞しく生きている現実を目の当たりにし、若い国の逞しさに羨望の眼差しを抱かずにはいられなかった。 送り出し機関の訪問では、円安が進んでいる状況や日本の経済力の低下に伴い、技能実習生のリクルートが難しくなってきていることが多く聞かれた。送り出し機関によっては、少数民族などの応募も進んでおり、今後はベトナム国内における人材の奪い合いにも発展するだろうとあった。 帰国した技能実習生のインタビューでは、技能実習制度が海外に行くきっかけになったという意見が述べられ、視野が広がったという意見があった。ただ、今の仕事に役立っていることは何かと問うと、働き方であるという意見、日本語力であるという意見を多く耳にした。この制度はどのように変えていくべきかという問いには、もう少しフレキシブルな働き方のできる制度がほしいといった意見があった。技能実習制度は施行から30年の節目となり、転換点を迎えている。渡航する技能実習生の立場に立った制度の在り方が問われていると感じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年から拡大したCOVID-19の拡大により、ベトナム現地のフィールドワークが実施できず、研究が中断した。国内にとどめ置かれた間は、国内の技能実習生の状況について調査を重ねた。2022年夏に、ようやく海外のフィールドワークを条件付きで再開することができた。これにより、2022年度はベトナムでの調査を再開し、技能実習生のインタビューや送り出し機関の訪問を実施した。ロックダウンも経験したが、COVID-19の影響を早くに封じ込めたベトナムでは、国の経済が成長し続け、それゆえにベトナムの日本離れが進んでいることを感じ取った。 日本の国会では技能実習制度の在り方について議論が始まっており、技能実習生の入国前の教育に視点を置くことや、帰国後のキャリアパスについての議論がなされている。 帰国後のキャリアパスについては、これまでのところ、一貫した流れはまったくなく、帰国後の就労支援もほぼないといえる。帰国した技能実習生たちは、独自で就労先を探すことが多く、日系企業などで雇用される確率は低いことがわかっている。その理由はいくつかあるが、思うほど技能が身についていないことがある。単純作業が多かったことが背景にある。一方で、日本人の無駄のない働き方については、ベトナム人が学ぶべきものであると考える帰国技能実習生が多く、それは現在の職場で生かされているという。 また、日本語を習得した技能実習生は、日本語力を生かした高収入の仕事に就いている人が多数いる。日本で美味しいパンの製造法を身に付け、帰国後ハノイで開業し、人気のパン屋を経営する帰国技能実習生に出会った。技能実習が大いに役立った事例である。 日本社会が日本を選んでやってきた外国人労働者に何を提供できるのか、人材育成の在り方はどうあるべきか、さらなる議論が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、日本において技能実習制度の見直しが進められており、送り出し各国がその動向に注視している。この見直し案などによっては、現地の送り出し事業も大きく変革することになると思われる。これらについて、ベトナムの送り出し機関はどのように考えているのか窺ってみたい。 技能実習制度は人材育成を大きく掲げている。しかし、人材育成には時間がかかり、一朝一夕に成しえるものではないことは周知の通りである。一方で、単純労働者の不足という現状打破のために、人材育成を掲げた制度を濫用した矛盾は随所に散見された。 そうはいっても、3年もの間、異国で働き続ければ人は成長するものである。言語や慣習の違う環境で働いた経験は、その後の人生を支える幹となってやがて結実に繋がっていく。それは、非常に長い過程であり、一過性の調査で判断できるものではないと考えられる。 そのため、長期視点に立った人材育成のプログラムとして制度を捉え直すことが必要だと考える。送り出し国、受け入れ国双方の研修において、多様な観点から教育を構築し、長期で人材育成をしていく心構えが日本には必要であろう。そして、日本社会には受け入れる寛容と受容の精神を醸成しなくてはならない。 技能実習計画があくまでも技能の視点でしかとらえられてこなかったことを反省し、国際社会の中で生きるための視点をもった人材育成に置き換えていくことが望ましい。今後は海外人材の争奪戦が激しく繰り広げられる。その中で、海外人材に日本を選んで来ていただくためには、日本での労働環境や生活環境の整備は当然だが、その後の人生を豊かにする人材育成の視点をもったスキームの構築は非常に重要なポイントであると考え、そのスキームを構築するために研究を継続する。
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Causes of Carryover |
2020年から拡大したCOVID-19のために、研究の中心となる海外フィールドワークが実施できなかったため、研究の大幅な遅れが生じてしまったことから、次年度への持越しが生じた。2022年度より、ようやく研究の再開のめどがつき、今年度が集大成にあたる年度であると考えている。 海外フィールドワーク用に研究費が支給されていたため、大幅な使用の遅滞が生じてしまっている。今年度は再度ベトナムに渡航し、新たな制度に生まれ変わろうとしている技能実習制度への思いや、現地が期待するキャリアパスなどについても取材してくる予定である。
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Research Products
(3 results)