2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of social participation support in "Basic security benefits for job-seekers"
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19K02169
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
布川 日佐史 法政大学, 現代福祉学部, 教授 (70208924)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 市民手当 / 子ども基礎保障 / 資産調査 / 求職者基礎保障 / 社会参加 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドイツでは、昨年12月に社会民主党のショルツを首班とする社会民主党・緑の党・自由党の3党「信号」連立政権が成立した。3党が結んだ連立政策協定は、雇用政策と公的扶助の交錯領域の政策に関しては、次の3点を提起している。①最低賃金を12ユーロ/時に引き上げ、ワーキングプアをなくす。②子ども基礎保障(Kindergrundsicherung)を創設し、現行の子ども関連の給付・税制度の不平等をなくし、子どもを貧困から救い出す。③求職者基礎保障(ハルツⅣ)を廃止し、市民手当(Buergergeld)を創設し、尊厳のある生活・社会参加を保障する。社会保障制度を大幅に改革し、貧困の予防と最低生活保障制度の改善・拡充を同時に確実に進める内容である。 この中で、求職者基礎保障(ハルツⅣ)を廃止し、市民手当(Buergergeld)を創設するという課題は、本研究の研究課題そのものである。市民手当の創設の目的として掲げられているのは、「社会参加のより一層の促進」そのものなのである。研究課題としてきたことが、政策上の現実の課題となったのである。 2021年度は、市民手当提案の前提となった、「コロナパンデミック」対策としての「求職者基礎保障(社会法典Ⅱ)」の申請・決定手続き簡素化について検討を深めた。第1に、緊急対策としてとられた求職者基礎保障の運用の変更について、法レベルと運用規則レベルから変更の具体的内容を確認した。第2に、緊急対策がとられた背景として、コロナパンデミック以前の運用実態と問題点を検討した。第3に、緊急対応の現場レベルの実施状況を検証し、どのような成果が生じ、どのような課題に直面しているかを明らかにした。そのうえで、第4に、こうしたコロナ緊急対策が、市民手当構想の重要な柱に取り入れられてきたことを明らかにした。 市民手当構想そのものについては、その概要を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も、COVID-19感染対策による出入国制限のためにドイツ現地でのインタビュー調査を実施することができなかった。そのため、インタビューを予定していたMuender教授、 Betzelt教授、 Seelib-Kaiser教授とは、メールでの情報交換と議論を行ってきた。支援団体のHofmann氏とも意見交換を行ってきた。また、秋以降、新政権が市民手当構想を打ち出してきたことにより、本研究テーマに関するドイツ国内の議論が活発化し、オンラインでのシンポジウムや講演会が、相次いで開催されてきた。それに参加することで、日本にいながら情報収集ができ、大事な論点を把握することができた。こうして入手した資料と、意見交換をもとに、ドイツにおける政策動向の重要な点について、研究成果としてまとめることができた。 翻って、日本におけるコロナによる生活難対策については、300万件を超える特例貸付が行われたことの問題性を検討してきた。返済免除基準が厳しいままなので、困窮状態の人が長期にわたって返済を迫られることになる。また、返済が免除された人は、所得水準は生活保護基準以下ということでもある。 以上より、雇用・労働政策による貧困予防対策を拡充しつつ、最低生活保障制度の拡充を目指すドイツと、生活保護の手前の第二のセーフティネットを拡充し、生活保護を「解体」するという議論が起きている日本という、両国の政策展開の特徴付け作業を終えることができ、日独の政策を比較分析する視点を明確にすることができた。 また、ドイツにおいて、社会参加というキーワードが、障害者政策の分野から、基礎保障の分野に広がってきたプロセスとそこでの概念の発展を、Bartelheimer教授の研究成果をもとに整理することができた。これにより、日独比較の理論的視点を整理することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、まずは、Loccumが開催するオンラインシンポジウムに参加するなど、日本にいながら可能な情報収集に努める。そのうえで、2022年12月もしくは2023年3月に、ある程度の日数をかけたドイツ現地調査を行うことを計画している。現地においては、支援現場を訪問して、市民手当創設に向けた一大論点である「制裁見直し」について、現場担当者の意見や雰囲気を把握する。また、これまで意見交換・情報交換を行ってきたドイツ研究者との対面での意見交換をじっくり行い、疑問や誤解をなくすことに努める。あわせて、意見交換を通じて、本研究のオリジナルな仮説を明確にする。 ドイツにおいては、ウクライナ難民の受け入れが始まる中で、制度改革の進展に紆余曲折が生じることが見込まれる。政治状況を反映し、制度改革構想の内容も変化していくことになろう。それを見逃すことなく、迅速に対応し、さまざまな具体的論点をしっかりフォローする。そのうえで、プロセスで起きることに振りまわされるだけでなく、どのような論点や課題が浮かび上がってくるのか、大きな視点から検討していきたい。
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Causes of Carryover |
COVID-19感染対策による出入国制限のためにドイツ現地でのインタビュー調査を実施することができなかったため、海外出張旅費の支出ができなかった。 2022年度は、ドイツ現地調査を、ある程度の長さで行うことを計画している。
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Research Products
(4 results)