2019 Fiscal Year Research-status Report
デンマークのアクティベーション改革と支援組織の変容に関する研究
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19K02173
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
嶋内 健 立命館大学, 産業社会学部, 授業担当講師 (70748590)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アクティベーション / デンマーク / ジョブセンター / 基礎自治体 / 就労支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、関連資料・文献の収集、研究ならびに実際の政策動向の分析を中心に研究を進めた。具体的には、2007年に創設され、同国における地域の雇用サービス運用の拠点となっているジョブセンターの設立背景を、政府文書および学術文献から探った。そこで明らかになったのは、一方ですべての市民に個別状況に応じたサービスを提供することが、同センターの設立の目的としてあったが、他方で国が推進しようとしていたが現場のケースワーカーたちの抵抗でなかなか進展していなかったアクティベーション政策のワークファーストへの移行を加速させる目的があったことである。したがって、ジョブセンターの設立は、一般的に理解されている雇用政策の地方分権化という表向きの性質だけでなく、国が地方の雇用サービスの運用をより強く制御する中央集権化という別の性質があることに注目しなければいけないことが浮かび上がってきた。この観点から現在のジョブセンターの組織構造を改めて捉えなおしてみれば、ジョブセンターは確かに「就労支援」に特化したサービスを提供しており、その他の社会サービスは公的機関または民間支援組織との連携(外部化)によって提供しており、何より求職者の給付を担当する部署が、同センターから切り離されていることの根拠が見えてきた。また、就労に特化したサービスを提供するために、地方政府は以前のように専門的な教育訓練を受けたソーシャルワーカーを、ジョブセンターの職員として配置しなくなってきたことが先行研究で指摘されている。以上の文献および資料の分析結果を踏まえて、筆者が2017年に実施したコペンハーゲンのジョブセンターで実施した聞き取り調査を改めて分析・考察を実施したところ、確かに現場の職員はソーシャルワークと異なる教育歴をもった職員が多く、彼らの語りの中からは包括的な支援の提供にあまり関心を持っていないことを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献および資料の研究は「研究実績の概要」で述べたように、おおむね順当に進展している。しかしながら、文献研究以外に予定していた現地でのフィールドワークを、COVID-19の影響により断念せざるをえなかった。現地での聞き取り調査の準備、調査の実施、次年度調査の現地打ち合わせ、次年度調査に関わる人脈づくりを行う予定だったが、まったくできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
文献研究でデンマークの地方行政のしくみや、近年の動向について理解を深める。それによって国との関係(政府間関係)や、基礎自治体の雇用政策の意思決定過程の特徴を理解する。 文献研究はある程度できるかもしれないが、COVID-19の今後の影響次第で来年度も調査が実施できるかどうか不明確である。事態が収束し、調査の実行が可能であると仮定すれば、昨年度に実施できなかったフィールドワークの繰り越し実施を含めて、調査を複数回にわたって実施したい。調査対象候補は、①KL(全国のコムーネが結成する団体)、②地方議会の雇用委員会に所属する議員(就労支援の人材確保や支援プログラムの予算決定権をもつ)、③労働組合、④生活保護を受給する若者に就労支援を提供する教育機関、⑤NGOである。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により、2020年3月に実施する予定の海外調査が実施できなかった。調査にに関わる旅費およびテープ起こし等の費用を使えなかった。COVID-19が収束し、調査実施にとって安全な環境が整ったときは、断念した海外調査を次年度に繰り越して実施する計画である。
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