2020 Fiscal Year Research-status Report
Enhancing expertise in "after-school day service"for disabled students
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19K02243
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Research Institution | Tokyo University of Social Welfare |
Principal Investigator |
立松 英子 東京福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (20510613)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 放課後等デイサービス / 専門性向上 / 認知発達 / アセスメント / 教材・教具 / 行動障害 / 発達支援 / 非言語的コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、放課後等デイサービスにおける専門性向上をテーマとして、①直接支援者の専門性向上に向けた発達的視点からの事例研究、②発達支援に関する意識調査、及び③文献研究により成り立っている。令和2年度は、①事例研究で行った個別学習の「実施マニュアル」の作成、及び、②昨年度3月から5月にかけて回収した質問紙調査の分析と対外発表に重点を置いた。 1 事例研究:令和2年度の予算を使用して、「コミュニケーションのための個別学習 実践マニュアル」を作成した。全体で44頁、カラー刷であり、第一章では、直接支援者が実施できる発達評価の方法と、各段階に応じた状態像や支援のための目安を示した。第二章では、支援のための基本的な考え方を示した。第三章では、コミュニケーションのために使用する教材教具の写真及び働きかけのねらいや方法、留意点などを記した。第四章では、弁別課題を取り上げ、働きかけや設定の順序性・系統性を示した。最後に、評価のためのシートや実施手順を掲載した。 2 質問紙調査:400通配布したが、コロナ禍の影響もあり、回収率は19%程度であった。それらの結果を分析し、学会と研究会で発表した。結果を要約すれば、各事業所における「専門性向上」への希求は高く、経営者の関心も、事業所の運営や理念の共有などの選択肢の中で「専門性の向上」が最も高かった。職員の研修費用も、事業所が負担して行っているところが多かった。 3 文献研究:国内の児童発達支援に関する施策の動きを調べ、現在の課題と今後の見通しを把握した。放課後等デイサービスの数は以前として増え続け、新型コロナ感染症が広がり始めた令和2年2月から3月にかけて一旦利用者は減ったものの、その後再び増加の傾向をたどっていることがわかった。医療的ケアを行う事業所が増え、言語的コミュニケーションが困難な子どもの発達支援をどうするかが一層の課題となることが伺えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 事例研究 事例研究に関しては、例年のように対面での勉強会はできなかったが、オンラインで今までと同様な回数実施できた。群馬県下の放課後等デイサービス事業所(社会福祉法人含む)4か所の代表(理事長)に快諾を得て、令和2年度の勉強会は計7回(7/8、9/9、10/9、11/20、12/18、1/22、2/5)実施でき、そのうち4回において、直接支援についての事例発表があった。コロナ禍における運営の工夫についても情報交換できた。 各事業所で実施することになっている個別学習は、1回10-15分程度で行い、他の活動の邪魔をすることもなく、子どもにとっては気分転換になるように設定している。従来「認知発達治療」と呼ばれ、自閉スペクトラム症の幼児を対象とした精神科医療で開発されたものだが、利用者の認知発達に着目した働きかけである。単に能力向上を目的としたものではなく、具体物(教材教具)の操作を通じて言語表現の困難な子どもとのコミュニケーションを図ること、直接支援者が子どもの認知発達の状態に気づくスキルが向上し、適切な働きかけの視点をもてるようになることが目的である。その先の、適応行動の獲得や行動障害の予防が念頭にあるため、「何を使うか」よりは「どのようにそれを行うか」が重要であり、そのためのマニュアルが必要であった。そのマニュアルを完成することができた。 2 質問紙調査 質問紙調査に関しては、回収率は少なかったものの、回収できたデータは管理者74名、直接支援者81名あり、その結果を分析することができた。第55回日本発達障害学会(オンライン)において、「放課後等デイサービスの専門性向上に関する小規模調査」というテーマで発表した。また、内容を現場の支援者向けに調整して、「第31回太田ステージ研究会」で報告した。さらに、同内容は論文としてまとめ、現在日本発達障害学会の学会誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
3番目の「文献研究」においては、今後ますます放課後等デイの利用者が増大・多様化することや、重症心身障害児の利用割合が増えつつあり、健康管理のみならず発達支援の視点をいかに持つかが課題になることが予測できた。2020年7月調べで、創設期の事業所数2,540は15,224へ、利用者数は創設期の47,642名から245,767名、それぞれ6倍、5.2倍となっている。多様化に対応する視点や実際のプログラムが必要であろう。 本研究に参加している利用者の多くは、各事業所で、接し方に専門的助言が必要と判断され、保護者もそれを望んでいる強い行動障害を伴う事例である。これらの事例について、VinelandⅡ適応行動尺度や本研究で使用する認知発達の評価「太田ステージ評価」その他、視覚運動機能に関するデータや、個別学習の場面の実録ビデオが蓄積されている。今年度は、それらの資料を整理・分析し、忙しい放課後等デイの現場でできる発達支援の実践事例としてまとめていきたい。 本研究で使っている「認知発達治療」の臨床研究では、重症心身障害児の評価において、言葉を理解しない段階を物への反応で5段階に分けることができる。この段階も含め、言葉の理解への移行期や、単語の理解はあるが言葉を使って考えるまでにはいかない段階、すなわち、Piagetによる感覚運動期から表象的思考期の前概念的思考期までの思考と行動は、一般の大人には理解しにくいものである。「発達支援」「専門性向上」の概念は広いが、直接支援に従事しながら、日々この子どもたちとのコミュニケーションの手立てを探している現場の職員に、行動から認知発達の状態を見取り、自らの力で適切な支援方針が立てられるような視点を提供することを、本研究の「専門性の向上」の柱と考えている。
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