2019 Fiscal Year Research-status Report
被占領期における方面委員・民生委員活動の実際についての研究
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19K02284
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Research Institution | Kobe Women's University |
Principal Investigator |
小笠原 慶彰 神戸女子大学, 健康福祉学部, 教授 (00204058)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 占領期社会福祉 / 方面委員 / 民生委員 |
Outline of Annual Research Achievements |
岐阜県加茂郡佐見村(現・白川町下佐見)で方面委員・民生委員を務めた某が保存用にまとめていたと思われる1946(昭和21)年6月から翌年9月にわたる「方面委員ニ関スル書類綴」を入手している。その史料をもとに地域の一民生委員の活動から被占領期の社会事業行政の実状について明らかにしていくことである。それにより混乱時のあいまいな実状について、その一端を明確にすることが可能ではないかと考えている。 『書類綴』では、「生活困窮者生活援護事業」が当初は7月1日の旧法成立見込みを踏まえて6月末までとされていたことや「生活困窮者救済用元軍用衣糧配給」が行われていたことがわかる。また方面委員(民生委員)が「所轄勤労署連絡委員」に選任されていたことや「余裕住宅の開放」に関しては、貸付勧告や貸付命令も行われていたことも記されている。ただ後者についての民生委員の役割はよくわからない。さらに佐見村では、役場厚生係から民生委員に対して保護受給者の生活扶助日額が通達されていたことを示す文書もある。これらによって当時の社会事業行政の実状がある程度把握できた。 日本社会事業学校研究科第1期生で1947年(昭和22)年から2年間を静岡県軍政部厚生課の技術アドバイザーとして勤めた田中壽は、「連日、軍政部スタッフに随伴して市町村の民生行政事務と社会福祉施設の視察や監査に東奔西走し、ほとんど席を温めることがなかった」としている。 そのような状況下でも第一線の民生委員には指示内容が自治体から文書で知らされている。それは戦中に使用されたのであろう「幹部候補生採用願」やハトロン紙様の納税関係書類等の裏紙に謄写版印刷してある。これ以外の通信・伝達手段はなかったのだろうが、それは社会事業行政の秩序回復と維持に一定の役割を果たしただろうとも思える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
最初の段階での文献研究としては、上記『書類綴』および1947(昭和22)年1月15日から発行(再刊)された『民生時報』を第1次史料として用い、関連する先行研究を踏まえて考察することがある程度できた。 しかし、上記『書類綴』の著者が方面委員・民生委員として占領期に活動した岐阜県加茂郡佐見村(現・白川町下佐見)で行う予定であった現地調査が、COVID-19の影響で実施できなかった。この調査によって、現地でしか入手できない当時の下佐見についての史資料を探索し、入手する予定であった。 そのため入手した史資料もとに地域の一民生委員の活動から被占領期の社会事業行政の実状について明らかにしていくこと、それにより占領初期の社会福祉行政混乱時のあいまいな実状について、その一端を明確にすることに着手できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
旧生活保護法の制定と時を同じくして、救済行政の補助にあたっていた方面委員を衣替えするために昭和21年9月13日勅令第426号をもって新たに民生委員令が制定され、同10月1日より施行された。この時点での民生委員は生活保護実施の補助機関とされていたが、その存在の重要性や勅令を根拠にすることの不適切性もあり、1948(昭和23)年7月29日には民生委員法(法律第98号)が施行された。 ところで旧法下の生活保護行政の現場、つまり主として民生委員令下で民生委員が補助機関とされていた時期における事務所は、戦時下において旧方面事務所等から転用されていた町内会事務所等が民生事務所として生活保護申請の相談窓口に利用されていたらしい。 しかし生活保護行政の実務が複雑化するにつれて、民生委員による対応に課題が生じただけではなく、また実際に実務担当が困難ともなって、民生事務所の有給職員配置が強化されていったようだ。 このような実状について、今後、COVID-19による自粛が解除された後に現地調査を実施することによって、上記『書類綴』に遺された史資料から一地方都市における状況を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により、予定していた現地調査が実施できず、旅費の支出が計画の半分以下であったために約10万円が本年度支出できなかった。またその現地調査によって史資料を入手するための費用が支出できず、約2万円のその他費用の支出もできなかった。 現地調査は、次年度以降に行う必要があるため、当年度に他の費用として支出することは適切ではなく、そのため次年度使用額が生じた。 状況の推移によるが、第2年度または第3年度に現地調査を実施し、現在生じている次年度使用額を消化していく計画である。
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Research Products
(1 results)