2020 Fiscal Year Research-status Report
男性の養育主体としてのエンパワーメントを促進する家庭科のカリキュラムに関する研究
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19K02292
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
佐藤 裕紀子 茨城大学, 教育学部, 教授 (00272740)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 男性 / 育児休業 / エンパワーメント / 家庭科 / 養育主体 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、平成31年度に行った男性の子育てへの関わりに関する諸外国の研究レビューをふまえ、育児休業を取得した男性への聞き取り調査を実施した。 調査内容は、育児休業中の生活、育児休業を取得して良かったこと・大変だったこと、育児休業中の生活の予想と現実の違い、家庭科の学習で役に立ったこと、などである。調査対象者は、5年以内に育児休業を1週間以上取得した父親9名である。対象の選定にあたっては、茨城県と栃木県において男性の育児休業取得を推進している自治体と、プラチナくるみん認定を受けた茨城県内の企業に調査協力を依頼し、承諾が得られた団体と企業に調査協力者を選定してもらった。調査方法は、対象者1人あたり30分程度の半構造化インタビューである。調査協力者に対し、同意説明書により事前に説明を行い研究内容に理解を得た上で、同意書にて同意を得た。語られた内容は協力者の許可を得てICレコーダに録音した。 先行研究では、父親のエンパワーメントにつながる育児休業は、単独で長期(3ヶ月以上)取得した場合であるが、今回の調査ではそうした対象者を見つけることができなかった。9名中、2名を除いてすべての父親は妻の「サポーター」であり、育児休業期間中にも関わらず、家事・育児の主要な担い手ではなかった。しかし、「妻から感謝された」「妻が喜んでくれた」などと語られ、良好な夫婦関係の構築に効果があったことが確認された。また、年長の子どもが「家事を手伝ってくれた」とも語られており、父親としてのロールモデルを示す効果があったことも示唆された。家庭科の学習内容が休業中、役に立ったと語った父親はほとんどおらず、家庭科の学習内容も具体的に覚えている父親はほとんどなかった。主体的に家事・育児に取り組んだ父親には、子育てをする父親のロールモデルが身近にあったこと、一人暮らしの経験があったこと、という共通点が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和2年度は、①面接調査を実施することにより男性のエンパワーメント要件の析出すること、②結果を学会にて口頭発表するとともに論文として公表すること、を予定していた。 しかし、前年度に続き、長引くコロナ禍の影響により面接調査が思うように進まず、前年度に予定していた面接調査を実施するだけにとどまった。また、前年度に諸外国の先行研究を整理することと、それを書籍として刊行することを予定していたが、これについても編集の都合上、次年度に持ち越されることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、2年度に実施した調査結果を分析し、論文として公表する。 その上で、今後はコロナ禍の感染拡大がすぐには収束しそうもないことをふまえ、以下のとおり研究計画の見直しをはかる。 「単独」かつ「長期」の育児休業を取得した男性(父親)への調査が可能であった場合は、面接調査を継続し、令和2年度の対象者(「妻と一緒」かつ「短期」)との比較検討を行う。 また、「単独」かつ「長期」の育児休業を取得した男性(父親)への調査実施の可否に関わらず、自治体の男性(父親)対象の研修等の調査を進める。近年は一部のNPO法人等だけでなく、自治体などでも広く一般に向けて男性(父親)の実質的な養育主体としてのエンパワーメントを目指す研修が行われるようになってきている。それらの中でも特に成果をあげている取組みを調査し、家庭科教育への展開の可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、昨年度は広い規模で面接調査を実施し、その成果を学会で発表し、論文投稿につなげることになっていた。しかし、2年に亘るコロナ禍の感染拡大とそれに伴う非常事態宣言の発出により、面接調査が思うように進まず、学会発表や論文投稿などもできなかった。そのため、調査の実施と結果の整理に要する旅費と人件費、成果発表のための旅費および論文執筆・投稿に伴う経費が次年度に繰り越されることとなった。 今年度もすぐにはコロナ禍の感染拡大が収束しないことを想定し、研究計画の見直しをはかった。 令和2年度は、「短期」で「妻と一緒」に育児休業を取得した男性(父親)への面接調査を実施した。令和3年度は、昨年度の調査結果を論文としてまとめる。その上で、育児休業を「長期」かつ「単独」で取得した男性(父親)の調査が可能であれば、引き続き面接調査を実施し、その成果をまとめる。また、「長期」かつ「単独」で取得した男性(父親)への調査実施の可否にかかわらず、新たに自治体の男性(父親)を対象とした研修の調査を実施する。近年は自治体でも男性(父親)の意識付けだけでなく実質的な養育主体としてのエンパワーメントにつながる取組みを始めているので、特に成果をあげている研修等を調査し、家庭科教育としての展開の可能性をさぐる。次年度使用額は、以上の取組みに必要となる経費として使用する。
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