2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K02308
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Research Institution | Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University |
Principal Investigator |
野村 陽子 沖縄科学技術大学院大学, サイエンステクノロジーグループ, サイエンス・テクノロシ゛ー・アソシエイト (90302794)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 芭蕉布 / 科学 / 精練工程 / ウー炊き |
Outline of Annual Research Achievements |
芭蕉布繊維の増産を目的として、初年度は伝統的製造方法について、那覇市の沖縄県立図書館において、琉球文化圏(沖縄県と鹿児島県奄美地方)の市町村誌を全て精査した。具体的には、延べ2283冊から芭蕉布の製造工程のうちの要である精練工程(ウー炊き)や、特殊な洗濯方法の記載のある文献213冊を選別し、関連内容が記載されているページを撮影してその内容を表にまとめた。その結果、伝統的な芭蕉布の製造工程は、ほとんどが平良敏子氏の工房で行っている芭蕉布製造方法かそれに近い方法であった。しかし、現在の沖縄県八重瀬町では原材料のイトバショウに加えて、近世以降は「フィリピン産」も使用されたことや材料を柔らかくするために「棒で叩いた」という記載や、伊江島では微生物分解による方法も試されていた可能性が確認された。また、文献調査を進めるうちに、芭蕉布の使用には、シークワーサーや発酵溶液を用いた酸性下で行う特殊な伝統的な洗濯方法があることがわかった。この史実については、共同研究者がこの伝統的な方法で芭蕉布の洗濯を行い、柔軟性や白さが増すことを確認した。 また、本研究では沖縄県内の利用可能なイトバショウ(芭蕉布の原材料)の量を推定することを目指している。初年度では、イトバショウ検出のための迅速な判別法を開発することを目的とした。既報の6種のPCRプライマーのセットにより、イトバショウ(BBゲノムの原種)と島バナナ(AAゲノム)の葉(植物サンプル)からゲノムを抽出し、これをテンプレートとしてPCR反応を行い、増幅されたDNAフラグメントの大きさを比較した。その際に、前処理のゲノム抽出では、予想よりも新鮮な試料が必要であることが確認された。最終的には、3種のプライマーセットで、アガロースゲル上でPCR産物であるDNAフラグメントの大きさの違いが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、申請書に記載された「芭蕉布製造工程の調査」と「イトバショウの選別方法の確立」を目標とした。 「芭蕉布製造工程の調査」においては、初年度、次年度ともに旅費が申請額よりも削減されたので、島嶼部などへの遠方への調査ではなく、まずは那覇市の沖縄県立図書館所蔵のすべての関係市町村誌を精査した。この結果、研究実績の概要に詳細を記載したように、芭蕉布の製造方法はほとんどが現存の伝統的方法によるものである一方で、興味ある方法についての記載もみつかった。また、主流となる伝統方法についても、色々な地方でその方法が少しずつ異なることもわかり、来年度以降に予定している伝統的精練の、実験室での再現実験に反映できる貴重な情報が得られた。また、大宜味村喜如嘉の工房での聞き取り調査を今年度も行ったところ、現存する方法に加え海辺にイトバショウを埋めて(微生物による)分解を促すこともあったようであるが、目立った効果は得られなかったとの情報を得た。以上の情報から、来年度以降に予定している、伝統的芭蕉布繊維抽出工程の再現実験には十分は情報が得られたと考えられる。 また、「イトバショウの選別方法の確立」のPCR法を用いたイトバショウの選別でも、前処理工程を含む基本的な実験条件の検討が終了し、こちらも初年度の研究目標を達成できた。この方法を発展させていけば、目的通り、この方法によるイトバショウの他種のバナナ類からの選別が可能になると考えられる。さらに、次年度のサンプル確保のために、芭蕉布産地の喜如嘉地区よりイトバショウを研究代表者の所属する大学に移植できたことで、来年度の実験を遂行しやすい環境が整った。 以上から、現在までの進捗状況としては、予定通りに進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
文献調査から得られた史実を確認するために、伊江島(本島北部)と八重瀬町(本島南部)での聞き取り調査を行いたい。 2020年度は、精練の再現実験のために、現地(大宜味村喜如嘉の工房)での芭蕉布工程の科学的な調査を予定していたが、コロナウィルス肺炎の感染が心配される高齢者の職人が多いことから代替案で進めていく。すなわち、既存のビデオなど公開されている映像や、実際に喜如嘉の工房で繊維製造の体験をした協力者からできる限りの情報を得て、精練工程(ウー炊き)の再現実験を研究室で行い、必要な基準値を推定したい。また、喜如嘉の工房では原材料の状態によっても精練方法が調節されているという情報を初年度に得たことから、イトバショウ畑の栽培環境も精査したい。そして、この再現実験から得られた繊維について、顕微鏡観察や引張試験などを行い、その特性を確認したい。最終的には得られた結果を、工房の職人に伝えて意見をいただき、精練条件の微調整を行う。 また、イトバショウの選別方法については、2019年度に構築した方法でゲノム上の特定配列を増幅していくが、アクリルアミドゲルを用いてDNAフラグメントのより正確な分離を行う。また、初年度の島バナナに加え、沖縄県にみられる他種のバナナ類、例えば、三尺バナナ、扇芭蕉、さらにはマニラ麻などについてもDNAサイズの違いを確認したい。この結果を踏まえて、初年度に候補とした3種類のプライマーセットから、最も明らかな差が得られるものを決定する。初年度の市町村誌調査の結果から、当初予定していた喜如嘉地区よりもイトバショウと他の種類のバナナ類が混在すると予測される八重瀬町で自生するバナナの葉をサンプリングし、実際に選別を行いイトバショウ分布図を作成したい。さらには、サンプリングの範囲を沖縄県八重山地方(宮古島、石垣島など)に広げたい。
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Causes of Carryover |
今年度は所属研究室のアシスタントを、別の予算で雇用できたことで差額が生じた。一方で、特に次年度の旅費や人件費は申請額よりも減額されていることから、次年度に必要な調査費用を確保することを鑑み、繰り越しを考えた。さらに、2月ごろからのコロナウィルスの影響で、工房での職人への聞き取り調査が行えず、謝金を支払えなかったことも差額が生じた原因である。コロナウィルス終息後に考えている、職人と科学者との交流会などで、謝金は有効に活用する予定である。
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Research Products
(4 results)