2020 Fiscal Year Research-status Report
ニューラルネットワークとコンピュータシミュレーションを融合した調理の最適化
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19K02315
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
酒井 昇 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (20134009)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福岡 美香 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (10240318)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ニューラルネットワークモデル / 伝熱シミュレーション / タンパク質変性 / 魚の焼成 / 肉の焼成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的を達成するためには、1)調理過程のシミュレーション技術の開発、2)ニューラルネットワーク(NN)モデルの構築、3)プロの料理人の解析が必要であり、最終的にはこれらを融合することを目指している。本年度は各項目について以下の検討を行った。 1)2019年度はヒレステーキのような円筒形試料を想定し、2次元モデル(円筒座標系)の構築を行った。しかし、一般形状の食品では2次元モデルでは形状を表現できないため、本年度は3次元モデル(直交座標系)の構築を行った。具体的には、骨付き鶏もも肉と丸鶏の強制対流式オーブン焼成、鮎の上火式オーブン焼成についてモデル化し、焼成シミュレーションを行った。丸鶏焼成の場合、腹腔部に詰物をする場合としない場合で、中心部の温度上昇に差があり、詰物をしない場合、腹腔部の自然対流を考慮すべきことを示した。鮎の焼成に関しては、丸ごと骨まで食するため、骨の軟化が重要で、骨の軟化と焼成時間の関係を明らかにした。 2)2019年度はNNモデルを構築し、焼成終了時に中心温度と表面の焼き色が最適になるように焼成の最適化を試みた。その際、NNモデルの検証として、学習データに使用しないシミュレーション結果を用いた。本年度は試料として水分移動・蒸発のないシリコンとローストビーフを用いて焼成実験を行い、検証を行った。その結果、NNモデルによる予測に基づき、ほぼ最適に焼成できることを示した。 3)2019年度は、ステーキのプロの焼成においてミディアムを指標としたが、本年度はレア、ミディアムレア、ウェルダンについてもステーキを焼成し、検討を行った。そのときのタンパク質変性分布を計算し、アクチン(筋原線維タンパク質)とミオグロビン(筋漿タンパク質)に焼き方によって差があることを示した。特に、ミオグロビンは変性によって赤から茶褐色に変わるため、見た目に重要であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記載したように、本研究の目的を達成するためには、調理過程のシミュレーション技術の開発、ニューラルネットワーク(NN)モデルの構築、プロの料理人の解析が必要であり、最終的にはこれらを融合することを目指している。各項目の進捗は以下のとおりである。 1)調理過程のシミュレーション技術の開発:肉・魚の焼成過程では、温度上昇とともに、水分の蒸発、タンパク質変性が起こり、さらにタンパク質変性によって収縮・脱水が起こる極めて複雑な現象である。本年度は、丸鶏焼成においてこの現象を表すために3次元モデルを構築した。その際、ヒーターから被加熱物への位置関係を考慮した輻射伝熱、丸鶏内腹腔内の自然対流、タンパク質変性をモデルに組み込んだ。シミュレーション結果は実測値を良好に再現することができた。また、鮎の焼成に関しては鮎の骨の軟化をモデルに組み込み、軟化の様子を再現した。丸鶏焼成の成果は日本食品工学会年次大会(2020年8月)において発表している。鮎焼成の成果は日本食品工学会年次大会(2021年9月)において発表を予定している。 2)ニューラルネットワーク(NN)モデルの構築:2019年に構築したNNモデルについて、肉のオーブン焼成実験を行い、最適焼成の検証を行った。また、ニューラルネットワークを利用した調理の最適化について、日本食品機械工業会機関誌「ふーま149号(2021年)」に投稿した。 3)プロの料理人の解析:牛肉のステーキについて、筋原線維タンパク質と筋漿タンパク質の変性度を用いて、ミディアム以外にもレア、ミディアムレア、ウェルダンの状態の指標を明らかにした。成果は日本食品工学会年次大会(2021年9月)において発表を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、おおむね研究計画どおりに研究が進行しており、「現在までの進捗度」に示した各項目について、以下のとおり推進する。 1)調理過程のシミュレーション技術の開発: 2020年度は骨付き鶏もも肉と丸鶏の強制対流式オーブン焼成、鮎の上火式オーブン焼成を想定してモデル化を行った。これらの食材は内部に骨があるため、比較的収縮は少ない。そのため、収縮は無視して水分移動は拡散によって起こるとして取り扱った。しかし、牛肉のステーキや切り身魚の焼成などでは、タンパク質変性による収縮は無視できない。この場合、肉内部で収縮しようとする力で内部に圧力が発生し、その圧力勾配によって水分が排出される。本年度のモデル化においては、ひずみ-応力解析を取り入れ、タンパク質変性にもとづく収縮と脱水を考慮に入れる。 2)NNモデルの構築:2019・2020年度は、NNモデル学習データの入力として、食材の仕上がり状態を一定(ミディアム)として最適加熱条件を求めるシミュレーションを行った。2021年度は、1)と3)の結果を踏まえ、仕上がり状態(レア・ミディアムレア-・ミディアム・ウェルダン)に応じて、最適条件の指標を定め、最適化を行うように学習データをシミュレーションにより作成する。 3)プロの料理人の解析:2020年度は、肉のフライパン調理(ステーキ)、肉や魚の低温調理などについて、為後彰宏氏(辻学園調理・製菓専門学校、大阪)の指導の下、解析を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、大阪と東京の行き来を控え、一般的に言われているレシピを用いて解析を行った。2021年度は、新型コロナウイルス感染状況が落ち着いた段階で、再度、為後彰宏氏の指導の下、解析を行う。合わせて大学実験室においてもプロの料理人の調理履歴を再現し、製品の品質について検証する。また、これらのデータをNNモデルに組み込む。
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Causes of Carryover |
2020年度は、為後彰宏氏(辻学園調理・製菓専門学校、大阪)の指導の下、プロの料理人の解析を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、大阪と東京の行き来を控えた。そのため、為後彰宏氏への謝金と大阪へ出向く旅費の支出がなくなった。また、同じ理由で、国際学会は中止、日本食品工学会年次大会は三重県開催からオンライン開催になり、学会参加旅費の支出がなくなった。 2021年度は、新型コロナウイルス感染状況が落ち着いた段階で、改めて為後彰宏氏に指導を依頼する予定で、2021年度に繰り越した予算は、その分を謝金と旅費に充てる予定である。また、新型コロナウイルス感染状況に応じて、国際学会での発表も検討している。
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