2020 Fiscal Year Research-status Report
伝統発酵食品および新規発酵食品の機能性物質に関する研究
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19K02360
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
杉山 靖正 実践女子大学, 生活科学部, 教授 (90347386)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 未利用・低利用資源 / 摘果 / 機能性成分 |
Outline of Annual Research Achievements |
未利用資源を用いた新規発酵食品の開発に向け、昨年度に続いて発酵食品の原料となり得る未利用資源の探索を行った。本年度注目したのは、摘果果実の一つである未熟なりんごである。まず、長野県および青森県でりんごを栽培している生産者の協力のもと、13品種の摘果りんご(秋映、王林、ぐんま名月、紅玉、サンふじ、シナノゴールド、シナノスイート、シナノドルチェ、シナノリップ、つがる、夏明、ふじ、ブラムリー)を入手した。これらをメタノールで抽出し、得られた抽出液を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析した結果、それぞれの摘果りんごに豊富に含まれる成分の存在が明らかになった。そこで次に、これらの成分を特定するため、未熟な果実に多くの成分が検出された品種の一つであるブラムリーに含まれる成分の単離を試みた。ブラムリー(660グラム)をメタノールで抽出後、ろ過および濃縮することでメタノール抽出物を得た。続いて、溶媒分画および分取HPLCで精製して4個の化合物を単離した。得られた全ての化合物をNMRスペクトル解析したところ、2個の化合物の化学構造が明らかとなり、クロロゲン酸およびトリロバチンと同定した。残る2個の化合物は、クロロゲン酸類縁化合物であることが示唆された。クロロゲン酸やトリロバチンは、抗酸化活性以外にも抗炎症作用やグルコシダーゼ阻害等多くの機能性が知られており、これらを豊富に含むブラムリーの未熟果は機能性発酵食品の製造にあたり魅力ある原料の一つと考えられた。 さらに本年度は、発酵食品製造の効率化を目的として発酵期間の短縮化を試みた。蒸した大豆に種麹を加えて30℃で製麹後、食塩水、乳酸菌、酵母を添加して発酵した。混合割合や温度、攪拌方法等の条件を検討し、短期間(105日間)での発酵により醤油の製造が可能であることがわかり、次年度に予定している発酵食品製造に向け、効率的な製造方法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に続き、未利用資源の機能性物質に関する研究を進めることで、新規発酵食品製造に重要な材料候補の一つとして、摘果りんごを新たに選定することができた。摘果りんごの入手については生産者の協力が得られており、安定して試料確保ができるため、次年度の研究の見通しが立っている。また、生産者との情報交換を通して生産の現状調査も可能となり、今後の未利用資源活用に向けた新たな知見が得られることを期待している。また、本年度確立した短期間での発酵方法を用いることで、次年度は未利用資源を発酵食品とすることができ、さらには製造した発酵食品の機能性と含まれる有効成分の解明が可能である。 発酵食品の製造や機能性に関する研究は予定より進んでおらず、全体としてはやや遅れてはいるものの、新型コロナウイルスの影響により、現地調査もできなければ、研究環境も大きく制限されたため、できる範囲内で最大限に進めた結果、新たな発酵食品原料の選定と発酵工程の確立ができた。このことは翌年に繋がる内容であり、次年度に飛躍的な進展が期待できることから、本年度の進捗状況を順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はこれまで得られた研究成果を用いた発酵食品の製造となるため、材料の調達や設備の利用が不可欠である。この点において、来年度も引き続き新型コロナウイルスの影響を考慮すると不安であるが、本年度の研究手法やスタイルを続けていけば、特に大きく研究計画を変更する必要はないものと考えている。そのため、基本的には計画通り進めて行き、その時の社会状況に対し研究の優先順位を変更することで対応する。
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Causes of Carryover |
未利用資源の機能性物質の研究を中心に進めたため、機能性研究に必要な高額な試薬等の購入を次年度としたためである。また、新型コロナウイルスの影響により希望品の調達が遅れたため来年度に導入予定である。来年度分とあわせて、発酵食品の製造と機能性研究に必要な物品の購入に使用する予定である。
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