2021 Fiscal Year Research-status Report
自己に内在する公共性を喚起し、個人と公共性の矛盾を解消する道徳教育の在り方
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19K02390
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
生越 達 茨城大学, 教育学研究科, 教授 (80241735)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 子どもに学ぶ理解 / 対話 / 道徳性 / 対等性 / 異質性 / 共存在 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、個であることと矛盾するように思われる公共性をどのように身に付け得るかを明らかにすることを目的としている。 研究の出発点は、研究の実証性を確かなものにするために、人間存在を広い視野のもとに位置付けることである。文化人類学、生物学、脳科学に学びながら人間存在が本質的・実証的に「共存在」であるということが明らかになった。いっぽう現代社会においては、こうした「共存在」としての在り方が急激に変質させられている。人類にとって困難な時代状況なのである。 次に、上記のような広い視野からの考察を前提に、本研究は人と人とのつながりを取り戻すこととしての道徳教育の可能性を探ることにした。つまり人間存在は道徳性を必要とする存在なのだが、これまでの研究で明らかになったことは、上記のような人間の本質と、それを阻害する社会状況のなかでは、狭義の道徳教育(道徳の時間)を充実させることによってではなく、教室を異質性を生かす対話の場にすることが求められるということであった。ハイデガーの現象学に学びながら、ハンナ・アーレント、マルティン・ブーバー、カール・ロジャーズ等の思索に学びながら、対話の本質的構造について明らかにした。対話とは、話し合い活動の一つの在り方といったものではなく、場の構造そのものなのである。その場は、対等性や異質性をキーワードとして理解することのできる場であり、子どもに学ぶ理解の成立する場である。 研究においてかけているのは具体的な授業実践のなかで実証することである。コロナ禍のため授業研究が十分にできなかったため、林竹二や糸賀一雄といった実践にもとづく思想家の考えを纏めることによって授業についても研究を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は順調に進んでいるが、不充分だと思われる点は、授業実践のなかで実証することが不足している部分である。 研究課題の性質からすると、本来は最終的には授業実践のなかで、どのように対話が進行し、またその際に教師にどのように「子どもに学ぶ理解」が成立しているかを明らかにする必要があるが、コロナ禍において授業を観察する機会をもつことが難しい状況にある。研究においては、授業そのものではなく、授業記録にもとづき、特に林竹二の授業実践の記録にもとづき実践的なあり方について明らかにしている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年は研究の最終年度である。依然としてコロナ禍のもとにあり、外部から授業観察に入ることは難しいため、林竹二のみではなく、斎藤喜博や武田常夫、大村はまなどの実践家を取り上げて考える。最新の実践ではなく、上記のような実践家を取り上げる理由は、上記の実践においては、技術としての対話ではなく、これまで本研究で明らかにしてきた対話の本質が提示されていると考えるからである。 さらに最終年度なので、上記のような実践の分析を踏まえて、公共性を育む道徳性の在り方について考察する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍が続き、先進的な授業実践を観察分析することができなかったことのために次年度使用額が生じてしまった。本年度もコロナ禍にあるため、授業実践の観察はできるかぎりで行うしかないため、観察(旅費)のかわりに実践記録の分析のための実践記録の購入(物品費)を行うと同時に、全体のまとめを充実させるため対話理論に関する研究を充実させる。
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