2020 Fiscal Year Research-status Report
戦前期日本における高等教育と実業家:文科系を中心に
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19K02398
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
長廣 利崇 和歌山大学, 経済学部, 教授 (60432598)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 丁稚 / 徒弟 / 企業家 / 起業 |
Outline of Annual Research Achievements |
「戦前期日本における高等教育と実業家:文科系を中心に」を課題とする本研究では、前年度に小学校を最終学歴とする企業家の特質についての知見を得た。今年度は戦前期日本の小学校(高等小学校高2年修了者も含める)卒業者が新たに事業を起こし企業家となるプロセスを検討した。この分析結果は、2020年7月11日の企業家研究フォーラム年次大会において報告(長廣利崇「戦前期日本における企業家と学歴」)した。この内容は以下である。 小学校卒の成功した企業家は、小学校の成績が良いものの、家庭の経済状況によって、中学への進学を断念したものが多かった。分析対象とする125人中75人は丁稚・徒弟と して商家・製造店舗などに入った。丁稚・徒弟は江戸時代の奉公人制度に系譜をもち、経営者家族と寝食をともにした。しかし、給与の支払いは不透明なところが多く、小遣い程度の支払いであることもあった。ただし、1920年の東京の調査では、全商業従事者に対して19歳以下が23.7%存在した。丁稚・徒弟は経営者家族の雑用からはじまり、商品の運搬や荷造などをし、取引先との対応をした。こうした職業経験を通して、商品の知識や製品の加工を学んだ。なお、125人中29人は夜学で簿記や製図などを学んだが、これは卒業資格を得るというよりも職業に必要な知識を補完的に修めるという性格のものであった。 丁稚・徒弟の職業経験を通して独立起業した。従って、丁稚・徒弟の職業経験が事業の成功の基礎を形成していたといえよう。戦前期日本の企業家としての成功は、高等教育機関を卒業するのみならず、職業経験と補完的教育を通したもうひとつの道が存在していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学会報告を実施できたが、そこで得られたコメントに対する修正をするための資料の調査が困難になった。これは新型コロナウィルス感染症の影響によるもので、東京や地方などへの調査活動が制約されたためであった。国立国会図書館のデジタルアーカイブスや大学図書館の相互貸借制度の利用のみでは資料の収集に限界があった。この制約下のなかでも活用できるデータの分析やすでに収集済みの資料の分析を進めたが、分析結果を強固とするには新たな資料を必要としたため、研究活動が制約されたと言わざるを得ない。そのため「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に学会報告をした「戦前期日本における企業家と学歴」に関しての論文の執筆・完成することである。様々なコメントを受けた結果、国際的な位置付けが必要と分かった。そのため、この日本の事例を国際的研究に位置付けることを目指す。 第二にケース・スタディをすることである。データ分析とともに個別ケースによる事例分析を行う研究方法をとっている。分析結果をより強固にするためには、企業家の事例研究が必要となる。具体的には、製靴産業に従事した企業家の事例を検討する。この産業には様々な企業家が存在するが、小学校を卒業した後に丁稚奉公をし、その後、独立開業してゴム革靴の製造事業者となった松田一郎のケース・スタディを取り上げたい。
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Causes of Carryover |
東京や地方への資料調査をするため、次年度使用額が発生した。新型コロナウィルス感染症のため資料館等が閉室したり、県を超えた移動が制約されたりする状況となったため、次年度に調査を行うこととした。
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Research Products
(1 results)