2019 Fiscal Year Research-status Report
労働環境が教職選択・教員供給に及ぼす影響に関する総合的実証研究
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19K02422
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋野 晶寛 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (60611184)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 教育政策 / 教員政策 / 教職選択 / 教員労働市場 / 労働環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1)教員供給および教員の「質」に関わる評価に関する方法的検討、2)教員労働市場に関する実証研究のレビューを行った。 1)に関しては、a)除外制約を用いない処置効果識別・推定のためのモデル、b)分位点回帰モデルを応用した教員評価モデルを扱った。a)については観察データにおいて同時性や欠落変数によって生じる内生性に対処する方法として除外制約に基づく手法(操作変数法)の代替的な方法として不均一分散による識別によるモデルを検討した。既存モデルの拡張を行い、2値・多値順序処置変数における状況に拡張し、シミュレーションデータおよび教員労働環境に関する実データへの適用によってその有効性を検証した。b)に関してはStudent Growth Percentilesモデルと呼ばれるセミパラメトリック分位点回帰に基づく教員・学校評価モデルについて、観測されない非時変的な要因による内生性の問題に着目し、変量効果・固定効果モデルを含む拡張モデルの比較検討をシミュレーションデータにおいて行った。これらの成果は、雑誌論文・紀要論文および日本教育行政学会における学会報告において発表された。 2)に関しては、2年度目以降の作業に向けて、海外の教員労働市場に関する実証研究のサーヴェイを行い、方法・実質両面について検討した。方法的な論点として、既存研究で用いられているスウィッチング回帰モデルに着目し、上記の1)の成果に基づくモデルの拡張が有用であることを示した。また、実質的な論点としては、若者の教職選択における非金銭的要因の重要性を改めて指摘し、日本的文脈における示唆を得た。2)に関する成果は近日中に論文として発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の作業として、1)本研究課題の理論的・方法的検討、2)次年度調査の準備を計画していた。実際の経過は以下の通りである。 1)については、英語圏の教育政策・行財政および教育経済学における教員労働市場に関する文献について網羅的に取り上げ、教職選択における金銭的・非金銭的要因に関する知見を日本の教員政策の文脈に位置付ける作業を行った。また、方法面では近年の因果推論に関する参照し、非観測要因による交絡への対処について不均一分散を用いたモデルベースの手法を検討した。特に、後者については拡張・実装、複数の実データへの適用まで進めることができ、大きな進展があったと言える。これらの作業をふまえて論文執筆、経過報告として学会・セミナー発表を行った。 2)の年度終盤から始める予定であった次年度調査の準備については、調査実施時期や方法の見直しなど再検討すべき事項が生じたが、総合すれば、当初の計画に照らして良好な進捗状況にあると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度行う予定の作業は、1) 国際学力調査を活用した教職志望に関する分析、2)現職教員を対象とした調査データおよび国際教員指導環境調査による労働環境に関する分析、3) 教員養成大学・学部および一般大学在学者を対象とした質問紙調査である。 1)については、PISA2006、PISA2015, PISA2018において、調査対象者に将来の希望職業についての設問があり、学力や学習態度と教職選択との関係を分析することが可能となっている。別途収集する国レベルでの労働環境に関する情報と照合させた分析が可能となるため、それらのレベルの異なる階層モデルによって、労働条件のパターンがどのように介在するのかを明らかにする。2次分析であるため、分析のためのモデルの検討も初年度に既に済んでいるため、即座に取り掛かることが可能である。 同様に2)についても、共同研究者となっている別の研究課題の調査データを用いた分析も含めて、データ自体は既に蓄積されているため、着手の準備は整っており、円滑に分析・成果発表は進むものと期待できる。 3)は、各大学の教職科目授業時を利用し、1年次から3年または4年次までの学生に対し、教職・他職の労働条件に関する認識、教職観、現実の希望進路および仮想の労働環境パターンの下での進路選択、について質問紙調査を行い、データを得る。調査票の検討自体は昨年度より行っており、調査協力を得られ他大学から随時調査を行う予定である。感染拡大の影響により、調査の実施方法・時期の変更が必要であるが、調査自体は実施可能であると見込まれる。また次年度以降も同一学生に対して調査を行い、パネルデータを形成する。
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Causes of Carryover |
当初計画では、2年度目以降に実施する質問紙調査の準備としての研究打ち合わせのための旅費支出(海外渡航を含む)を見込んでいたが、2月以降に学内業務及び感染症拡大のため、出張を取りやめる必要が生じ、次年度使用額が生じた。 その次年度使用額で行う予定であった研究打ち合わせや質問紙調査などのプリテストの実施、そのための旅費の執行は、感染症終息の状況を確認しながら秋以降に可能となると見込まれる。そのため、当初計画とは作業の順序を入れ替え、秋季までは既存データの2次分析およびその成果発表に注力する予定である。今年度分の使途としては、教員政策文献購入費200千円、統計分析ソフト購入費200千円、調査・打ち合わせ・成果発表のための旅費60万円、調査質問紙印刷費200万円、データ整理・入力等謝金100千円を見込んでいる。
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Research Products
(4 results)