2020 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本における県立大学の国立移管に関する研究―設置者変更の「意味」をめぐって
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19K02447
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大谷 奨 筑波大学, 人間系, 教授 (70223857)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国立移管 / 農学部 / 県立大学 / 専門学校 / 新制大学 / 国立大学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度収集した史資料の整理と分析に加え、山形県立農林専門学校および長野県立農林専門学校の国立移管の過程について、県議会会議録に見られる発言や地元地方紙の記事から主として県側の意向を示す史資料の収集を行った。その結果、以下に上げる成果を得ている。 ①長野県は当初、県立農専の大学への単続昇格を模索していたこと、その後一県一大学の原則に従う形で信州大学への移管へと方向転換していったことが明らかとなった。 ②その際移管の条件として国から整備費負担を求められた長野県は、同様の事情を抱える新潟県に意向を問う照会をかけていることを確認した。このような他県とのすりあわせは移管条件が均質化する一因となっていたと考えられる。 ③一方、山形県では移管が山形大学発足に間に合わず、県立農専をいったん単独で県立農業大学として発足させ、約半年後に山形大学農学部として移管させている。なぜタイムラグが生じる事になったのかは明らかになっていないが、県議会や山形新聞の記事を見る限り、文部省は県内の官立高専の山形大学への一元化に苦慮しており、新制大学発足時に県立農専を併合する余力を欠いていたのではないかと推測している。また半年遅れで移管されたものの、長野や新潟と同様に、移管に際して多額の地元負担を担っており、この是非について県議会で議論されたことを確認できた。 上記のように、県立農専、県立農業大学を新制国立大学とほぼ同時に国立移管できた県がある一方、それに遅れ1950年代に移管した静岡、愛媛、香川のような事例、さらに島根や神戸のように1960年代まで移管ができなかった事例がある。その要因について引き続き検討することが必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来であれば、研究期間2年目にあたる今年度に、もっとも精力的に各県に赴き史資料の渉猟を進める予定であった。しかし昨年度の「実施状況報告書」で「COVID-19感染拡大の影響に伴い、地方への調査出張を行いにくい状況となり…当初の見込みよりは収集の具合は遅れがちである」と述べたが、この状況に全く変化はなく、また本務でもこの感染症対策のため例年以上に多くの労力を割くことになり、本研究課題に十分に取り組むことができなかったことを率直に報告しなければならない。本年度は上記のように、すでに収集した史資料の分析を中心に作業を進めたが、実証性を高めるためにはさらなる資料収集は必須の作業であり、今後の進捗について非常に懸念しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の状況が好転すれば、調査作業も復旧可能と見込んでいる。今年度の実績を踏まえ、農学部について移管が遅れたケースについて、その要因を県議会会議録等の収集を通じて分析したい。また同様の傾向は、医学部、工学部の移管の際にも指摘できるので、移管過程を整理し、前後差が生じた背景を考察したい。
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Causes of Carryover |
既述のように、年度を通じて実施予定であった史資料の渉猟作業が思うように進まず、結果的に次年度使用額が生じる事態となった。 今年度、COVID-19の状況が改善されれば、積極的に調査を展開するため、その経費に充てる予定である。
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