2022 Fiscal Year Annual Research Report
戦後日本における県立大学の国立移管に関する研究―設置者変更の「意味」をめぐって
Project/Area Number |
19K02447
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大谷 奨 筑波大学, 人間系, 教授 (70223857)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国立移管 / 国立大学 / 県立大学 / 新制大学 / 専門学校 / 農学部 / 医学部 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は従前までに収集した史資料の整理、分析を行うと同時に、三重県立大学、鹿児島県立大学、島根農科大学、岡山農業専門学校、広島市立工業専門学校、広島医科大学の国立移管に関する県議会会議録、地元新聞のバックナンバーなどを所在地に赴いて渉猟し、以下のような総括を得た。 ①ほとんどの県立専門学校(県立大学)は、当初から国立移管を射程に入れて設置されている。しかし、1949年の新制大学発足時から国立大学の学部として再出発した県立学校がある一方、1970年代まで国立移管が引き延ばされていた県立大学もあり、移管に要する期間は一様ではなかった。 ②どの移管も移管の際に国から求められる整備費用が問題となった。これは、国の営造物の費用を県負担させるという点で、地方財政上決して好ましいことではない。しかし戦後教育改革期、官立高等教育機関を再編し新制国立大学を設置する場合でさえ、地元負担が求められており、国立移管の費用負担は国にとっても県にとっても所与の課題であった。 ③そのため、移管に要する期間の長短は、第一義的にはその県の財政負担能力を反映しているといえる。しかし移管を前提として設置したため、県立である限り続く経常費負担と、移管に伴う整備に必要な臨時費をグロスで比べるならば、今回検討したのは、県当局や県議会がどのようなタイミングで国の要求を受忍するに至ったのかというプロセスや、その背後にある動機であった。 ④移管を求める動機の一つが国立に対する「公立というコンプレックス」(衆議院文教委員会1972年4月5日・高見三郎の発言)があったことは間違いない。これに加え、他県との競争意識が働いたことも推測される。例えば香川県立農科大学の国立移管を目指していた香川県議会では、愛媛県が松山農科大学の移管に向け、香川県の三倍以上の臨時費を支出していることが取り上げられ県当局の奮励を促す発言が見られた。
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