2020 Fiscal Year Research-status Report
学説史を基礎とした道徳教育理論の研究 :1950~60年代の民間教育研究を素材に
Project/Area Number |
19K02451
|
Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
神代 健彦 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (50727675)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 道徳教育 / 教育学説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「特別の教科 道徳」の完全実施を背景として、日本の道徳教育学説史の蓄積を基礎とした新しい道徳教育の理論を提案することである。とくに、学説史の蓄積を、戦後日本の民間教育研究団体(民間研)のそれに求める点に固有性がある。 研究の第2年目となる2020年度は、全国生活指導研究協議会(全生研)における道徳教育の理論的蓄積を渉猟・分析することを作業課題として設定していた。具体的には、全生研の初期のリーダーであった宮坂哲文の生活指導論について資料収集と分析を行った。宮坂の生活指導論は、初期の仲間づくり論から1950年代後半以降に集団主義的性格を強めていったことが知られているが、そうした学説の変遷を改めて道徳教育論の観点から検討していった。分析の結果、宮坂の生活指導論は、1958年から実施された「道徳の時間」に対する強い批判意識を背景とした、対抗的な道徳教育論という側面をもっていたことを明らかにした。さらに、最晩年の著作では、指導における「コトバ」の重要性など、研究史上ではあまり触れられていない興味深い議論の展開があったことが明らかになった。 なお2020年度は、この学説史研究の成果を書籍として刊行する機会に恵まれた。木村元編『境界線の学校史―戦後日本の学校化社会の周縁と周辺』(東京大学出版会、2020年)の第5章「道徳教育に抗する/としての生活指導―普通教育の境界変動と宮坂哲文」がそれである。同書は、「境界線」をキーワードとする戦後日本の学校化社会成立史であり、義務教育・学校教育・公教育を問う第1部と、普通教育を問う第2部に分かれている。神代は第2部を担当し、いわゆる「普通教育」の境界変動の一例として道徳教育をめぐる論争があったこと、その論争における有力な論者の一人が宮坂であったことを、生活指導(道徳教育)の議論の内容及びその変遷とともに明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、2020年度は全国生活指導研究協議会の道徳教育学説に関する歴史的分析が主たる作業となっていた。その作業は順調に遂行された。加えて、それらの理論的成果を応用して、道徳教育についての一般向け解説記事(読書案内)等を執筆するなど、広く一般向けの実践的提言をすることも出来た。研究の予想以上の進展により、その一部を発信できたことは、本研究が当初の計画以上に進展していることを示していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に沿って、これまでの教育科学研究会、全国生活指導研究協議会に加えて、日本生活教育連盟に分析対象を広げつつ、その成果の発信の機会を探っていきたい。2020年度に歴史研究と実践的提起を並行して推進したことは、両者の進展に予想以上の相乗効果を生み出した。2021年度以降も歴史・理論・実践を往還しながら研究を進めていきたい。
|
Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルス感染症が流行したため、資料調査、学会参加等の活動ができず、旅費の支出がなかったことから、残額が生じた。 旅費を使用する研究活動等については、2021年度において、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえつつ検討することになる。2020年度から繰り越された研究費は、2021年度の研究活動のなかで、旅費も含めて適切に使用する予定である。
|
Research Products
(3 results)