2020 Fiscal Year Research-status Report
大都市貧困地域における成人・青少年の学習支援史に関する日英比較研究
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19K02459
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
関 直規 東洋大学, 文学部, 教授 (50405106)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | S.D.ヘッドラム / アングリカニズム / ベスナル・グリーン / 成人教育論 / 池園哲太郎 / 人格教育 / 社会教育方法論 / 欧米成人教育の受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
東京市とロンドン・カウンティ・カウンシル(以下、LCCと略称する。)は、日英の地方教育行政機関の系譜において社会教育・成人教育活動を先駆的に開拓した。本研究は、両大戦間期の大都市貧困地域における成人・青少年の学習支援の現場を実証的に明らかにしようとするものである。2020年度は、地域の学びに関わる制度的基盤の整備と担い手の思想の研究に重点を置いた。 まず、東京市の場合、自治と教育を中核に市政刷新の道筋を描いた、第7代東京市長後藤新平による1921年の社会教育課の新設を起点に、同課の課長・係長の専門的見識が、社会教育活動の多様化をもたらした。歴代課長で最長の在任期間を記録した第2代池園哲太郎は、欧米成人教育を受容し、人格教育を主張して、国家的・社会的要素を織り込みながら、社会の諸勢力を調和する中心として社会教育を把握した。さらに、成人の特性をふまえ、社会教育固有の方法論を探究している。 他方、LCCでは、初代教育長ブレア(Robert Blair)による1913年の夜間教育改革が、発展の礎石となったが、彼の手法が、成人教育活動の蓄積を前提とした点は、東京市との違いである。ロンドン教育当局は、早くから専門委員会を設け、ヘッドラム(Stewart Headlam)を中心に、地域の多様な人々に開かれた成人教育活動を積み重ねていた。国教会の聖職者だったヘッドラムは、ベスナル・グリーン教区に赴任し、アングリカニズムの中で、急進的意識を高めた。貧困地域の人々の内面的救済を目指した彼の公立夜間学校の拡張論は、コミュニティ教育論の特質を持っていた。 このように、地域の学びに関わる制度的基盤が、担い手の思想、行政・教育改革、人々の様々なニーズや海外の動向の受容等によって形作られていたことを実証的に解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の拡大の影響から、特に、英国現地における一次資料の調査・収集活動に制約を受けたが、大英図書館(British Library)、スコットランド国立図書館(National Library of Scotland)及び英国セント・アンドリュース大学図書館(University of St Andrews Library)等が所蔵するロンドンの成人教育史に関する貴重な資料を電子複写し、ご提供いただいた。本研究の主要な方法が、一次資料の発掘・分析であることから、関係諸機関のご協力を得つつ、本研究課題をおおむね円滑に進めることができた、と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、2年度目までに明らかにした、東京市とLCCにおける地域の学びに関わる制度的基盤の上に展開することになる、両大戦間期の社会教育・成人教育活動の全体を整理しつつ、日英比較史的考察を行う。新型コロナウイルス感染症の拡大傾向は続いており、一次資料の調査・収集活動に制限が予想される。そこで、2020年度と同様に、英国の大学図書館等が所蔵する一次資料の電子化による利用や、国内外の各種の電子資料(データベースや電子ジャーナル等)の提供サービスを効果的に活用することで、対応を図る。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルス感染症の拡大のため、当初計画していた英国現地で一次資料を発掘する海外出張を中止したことによる。次年度は、国内における一次資料の調査・収集活動、海外の大学図書館やアーカイブズ等が所蔵する一次資料の電子複写、また、各種の電子資料(データベースや電子ジャーナル等)の提供サービス等に使用する計画である。
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