2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K02470
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
青木 香代子 茨城大学, 全学教育機構, 講師 (00793978)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森茂 岳雄 中央大学, 文学部, 教授 (30201817)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会正義のための教育 / 多文化教育 / 抑圧 / 特権性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、文化間の差異の理解に焦点があてられる傾向にあると指摘されてきた多文化教育を見直し、社会正義のための教育(Social Justice Education, 以下SJE)に着目し、理論的研究及び実践開発を行う。SJEは様々なレベルにおける社会的抑圧とそれが生み出される構造を批判的に理解し、それに対して行動するためのスキルを育成することを支援するものであるが、2019年度にはSJEにおける理論の整理、及びこれまでの多文化教育における批判的検討を行い、SJEのプログラム開発における課題を提出した。 2年目である2020年度は、SJEの授業実践について、青木が担当している授業科目において、SJEの視点や特権性の視点をもとに、SJEの実践における課題と可能性を示した(青木、2020)。新型コロナウイルスの影響により、アメリカに渡航しインタビューを行うことはできなかったため、実践者に対するインタビューは最小限となった。しかしながら、アメリカの小学校においてSJEを実践している教師1名に対しオンラインで2時間以上のインタビューを2回行い、SJEの実践における指導方法・教授法、年間計画、指導の際の工夫等について詳しく聞き、SJE実践開発、及びカリキュラム開発の可能性を探ることができた。 また2019年度に行ったインタビュー調査について、それぞれの研究者が実践において紹介している理論や、それに関連する概念、SJEにおいて育成がめざされる資質等について示したほか、日本における実践についても、ロール・プレイやケース・スタディ、フリーライティングといった提案がなされ、開発に向けて具体的な例が示された(青木、2021)。さらに森茂は、SJEに関連する議論である人種や人種差別について、アメリカや台湾における教育について研究したうえで、授業構想を行った(森茂、2020)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度(2019年度)における社会正義のための教育に関する理論的研究及び授業開発の検討に引き続き、2020年度は、青木が担当している科目(「多文化共生」)においてSJEの理論的枠組みから授業を受けた学生のインタビュー及び記述から、SJEに関連する授業実践の課題と可能性を考察した(青木、2020)。また、2019年度に行ったアメリカの高等教育におけるSJEの実践者へのインタビューから、高等教育におけるSJEの実践の可能性を探った(青木、2021)。ここでは特に、近年注目されているブラック・フェミニズムやホワイト・フラジリティ、インターセクショナリティ等の観点から問題を捉えることの重要性が示された。さらに、全国語学教育学会(JALT)・海外留学(Study Abroad)SIGにおいて、2019年度まで実施していたサンフランシスコ・ベイエリア海外短期研修における学生の学びについて、SJEの視点から検討し報告を行った。 また、アメリカの小学校でSJEを実践している小学校教師へのインタビューでは、実践における指導方法や年間計画、授業の目標などについて聞き取りを行なったが、人権教育、批判的教育学、文化的に対応した教授法(cultural responsive teaching)等の観点から行っている授業実践についてだけでなく、教師が普段の実践で意識していることや児童の反応などから、日本における実践開発やカリキュラム開発の可能性の示唆を得ることができた。これについては2021年度6月に実施される日本国際理解教育学会において報告する予定である。 しかしながら、新型コロナウイルスの影響により、アメリカに渡航し実践者のインタビューを行うことはできなかったため、引き続きオンラインにて実践者のインタビューを続け、実践開発を行っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は3年目となるが、2020年度に予定していた実践者へのインタビューは1名にとどまったため、2021年度は引き続き、実践者へのインタビューをオンラインを中心に実施する。インタビュー先は、ミネソタ州ミネアポリスのサウスサイド・ファミリー・チャータースクール、カリフォルニア州ヘイワードのマウント・エデン高校等のほか、オンラインを通じてコンタクトを取り、依頼に応じてくれた実践者へのインタビューを行う。 また、SJEの視点を基にした実践開発については、引き続き青木・森茂の担当する授業等を中心にSJEの実践開発、及び実践を行う。その上で、参加した学生のインタビューや課題等の分析などを通して検証する。それまでの実践における検証では、抑圧構造や特権性に対する意識の変化にとどまるものであったため、2020年度はその理解を行動につなげる実践の開発を行う予定であった。しかしながら、新型コロナウイルスの影響によるオンライン授業に対する対応等により、授業開発のみにとどまった。2021年度は、社会的不正義に対して行動につながるための授業について、授業開発を引き続き行い、実践及び検証する予定である。開発にあたっては、アメリカの教員支援団体で教材開発も行っているLearning for Justiceが発行しているSocial Justice Standard等をもとに、日本におけるSJEの実践開発を行う。さらに可能であれば2020年度にインタビューに協力してもらった方へのフォローアップインタビュー及び報告者が開発した実践のフィードバックを得ることとする。 研究の成果については、引き続き、異文化間教育学会、日本国際理解教育学会等において研究発表を行うと同時に、実践の検証および改善を試みる。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルスの影響により、アメリカに渡航しての調査ができなかった。また、学会発表等もすべてオンラインで実施されたため、旅費が発生しなかった。2021年度は、アメリカおよび日本における感染状況により、渡航しての調査が可能であれば、現地に赴いて調査を行う予定である。その際の旅費、謝金、またインタビューの文字起こし、インタビュー調査に必要な機器などに使用する。また、対面で行われる学会発表に出席し、調査報告する機会があれば、その際の旅費に使用する。
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Research Products
(9 results)