2020 Fiscal Year Research-status Report
コミュニティ組織の実効性と持続性に関する比較事例分析
Project/Area Number |
19K02472
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
荻野 亮吾 佐賀大学, 学校教育学研究科, 准教授 (50609948)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | コミュニティ組織 / 実効性 / 持続性 / 協働 / 評価 / エンパワメント / 公共サービス |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目となる本年度は,1年目の理論的検討に基づき,コミュニティ組織の再編に影響を与える地方創生やまちづくり関連施策の批判的検討を行った。この分析から,2010年代の政策は,それ以前の政策と比べて「参加」よりも「協働」を重視する傾向が強まっていること,この中でコミュニティ組織の公共サービス供給機能が重視される一方で,組織のエンパワメントが考慮されなくなっていることを明らかにした。政策上求められる「協働」は,コミュニティ組織による特定サービスの供給と,行政による組織への支援という双方の役割を限定した協働となっており,この結果,公共サービスの縮減を招いている可能性を指摘した。 次に,この協働の隘路を抜け出すために,コミュニティ組織を支援する行政の制度設計のあり方を検証した。具体的には,長野県飯田市における中山間地域の2地区の事例分析を行い,既存の住民組織と異なる機動性の高いプロジェクト型組織の設置や,住民主導のまちづくりを進めるための行政側の「待ち」の姿勢などの特徴を抽出した。ここからコミュニティ組織の実効性を高めるためには,住民自治の風土や地域の活動の蓄積を反映した制度設計と,組織設置後の行政の関わりの姿勢が問われることを明らかにできた。 さらに,連携や協働の質を高める方法を考えるために,初等・中等・高等教育機関と地域との連携・協働に関する,既存文献のレビューを行った。この結果,パートナーシップの質に関する評価や,地域への影響に関する評価は依然として少ないこと,しかし,協働の質の向上のために,コミュニティ組織側の意見を取り入れたエンパワメント型評価が志向されるようになっていることを明らかにできた。 以上に示したように,本年度は,コミュニティ組織の実効性と持続性に影響を与える要素として,行政や教育機関との「協働」のあり方や,評価方法に関する研究を進めることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,新型コロナウイルス感染症の影響により,予定していたフィールドでの実地調査は難しかったものの,過去に行った調査データの分析により,プロジェクト型組織の設置や,自治の風土や活動蓄積を反映した制度設計,組織設置後の行政の関わりの姿勢などの,実効性や持続性を高めるための論点を明らかにすることができた。 さらに,以下の2点につき,当初の想定以上の研究成果を挙げることができた。1つは,地方創生や地域福祉,学校・地域間連携などを題材に,政策上の「協働」に関する横断的なレビューを行い,その問題点を把握することができた。もう1つは,「協働」の評価に関して既存文献のレビューを行い,協働の質や地域への影響の評価という新たな論点を示すことができた。 以上を総合的に見て,本研究は「おおむね順調に進展している」と判断することができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の影響によって,当初想定していたような,大規模な事例研究を展開することは難しいものと想定される。この代替となる推進方策として,以下のことを想定している。第1に,本研究の基軸をなす長野県飯田市の事例研究について,過去20年間の公民館の活動記録のアーカイブ化を行っており,公民館の講座・学級の内容や,専門委員会の活動内容の分析に着手する予定である。この分析によって,コミュニティ組織における学習がどのように組織化されていくかを明らかにすることができ,それが組織の実効性や持続性に与える影響について考察することが可能になる。 第2に,2019年度には対面で,2020年度にはオンラインで実施した各地域のサードセクター組織に対する聞き取り調査の結果を分析し,サードセクター組織の実効性や持続性を高める支援の方法を明らかにする予定である。なお,追加調査を行う場合には,対面だけでなく,オンラインでのインタビューを行うことを想定する。 第3に,これまで進めてきた研究を「地域教育経営」という枠組みのもとに統合し,政策や各地域の事例分析を含む書籍の刊行を行う予定である。この書籍では,関心を同じくする研究者・実践者にも協力を呼びかけ,様々な種類のコミュニティ組織やサードセクター組織の活動戦略や,その支援を行う自治体政策の特徴をまとめていく。順調に進めば,来年度(2021年度)中に刊行できる予定である。 以上の3つの推進方策により,当初の計画とはやや異なる形ではあるが,研究の目的を十分に達成することができるものと考えられる。
|
Causes of Carryover |
2020年度は,計画的に研究を進めたものの,感染症の影響もあり,調査のフィールドに赴くことが全くできず,打ち合わせやインタビューなどを全てオンラインで実施した。このため当初多くの金額を計上していた国内旅費を全く使用することがなく,これにより次年度使用額が生じた。 2021年度の使用計画については,フィールド調査のための旅費や,調査実施のための経費(インタビュー協力者への謝金など)を想定している。ただし,対面での調査が難しいことも想定されるため,オンラインでのインタビューなどに積極的に切り替え,研究の遂行を図る。また2021年度は,研究を進めていくために大量の資料や文献の整理が必要であり,この作業に関して,研究協力者に謝金を支払う予定である。
|
Research Products
(19 results)