2021 Fiscal Year Research-status Report
History of discipline in Imperial Japan's school rituals; Reconsideration of voices and sounds
Project/Area Number |
19K02493
|
Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
樋浦 郷子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (30631882)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 教育史 |
Outline of Annual Research Achievements |
感染症拡大という非常に厳しい状況のもとで、前年度と同様に書籍のほか,インターネットで入手可能な韓国や台湾などの学校文書や新聞記事のうち植民地期のものを地道に読み込む作業を継続し,次のようにオンライン発表を実施できた。 (1)「帝国日本の身体髪膚」(国際シンポ)「近代東亜体育世界與身体」(台湾成功大学、オンライン開催)、2021年5月14日。 植民地支配/被支配とはどのようなことを意味するのか、「身体髪膚」にこだわってアプローチを試みた。具体的には、中華文明の象徴的な存在である結髪から近代化にともなう断髪への変容、加えて、伝染病への対策として西洋の医療衛生思想の導入にともなう入浴習慣の事例を紹介し,非支配層からも断髪や日本式入浴の導入を受容する人びとが現れること,それは概ね男性から始まること,日本ではなく「文明」への捷径とみなされたことを報告した。 (2)「「誓わせる教育」の展開について―通過点・転換点としての「皇国臣民ノ誓詞」―」教育史フォーラム・京都(オンライン開催)、2022年3月7日。 植民地統治末期の朝鮮で実施された「皇国臣民の誓詞」の背景にどのような歴史があったのか検討した。「学校文化」としてこんにちも当たり前のように行われる「誓い」の一つとして「皇国臣民の誓詞」も存在したと推定し,その始まりは,1920年代日本の労働運動にあるのではないかと仮説的に結論付けた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は最終年度で,予定書の段階では研究集会の開催を予定していた。しかし引き続くCovid19の影響で、研究集会は中止せざるを得なくなった。韓国や台湾や国内の大学図書館、公文書館など諸機関への出張がかなわず、調査にも著しい支障が生じた。しかし,制限のある状況のもとで遅れはあるものの、入手可能な資料の読み込みをもとに、次のように一定の進捗を図った。(研究ノート)韓国併合直後の公立普通学校-「草渓公立普通学校沿革誌」を手がかりとしてー 『教育史フォーラム』16、教育史フォーラム・京都、2021年6月 85~98頁。 この論考では学校沿革誌などを手がかりに、併合直後の朝鮮人対象初等学校の試行錯誤の様態と、普通学校による地域の伝統的教育機関としての書堂への監視的なありさまが浮き彫りになった。さらには、普通学校への地域住民のまなざしや対応については、男性と女性で相違があったことも少しずつではあるものの見え始めた。 性別の相違については、新たな検討課題の発見と位置づけ、引き続き解明を目指したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
計画段階から,最終年度に国際研究集会を開催する準備をしてきた。しかし最終年度に感染症の拡大によってそれが実現不可能となり,引き続き先の見えない状況が続いているため,国際研究集会を断念して自分の現在に状況でできることを地道に継続する方向へと舵を切らざるを得ない。延長年度である2022年度には,次の二つへと研究の目的を修正・調整しながら進める。第一には,これまでの蓄積を引き続き充実させるべく,新聞記事や学校公文書類等の読み込みを進め,できるだけ口頭発表を行うことである。とくに「皇国臣民の誓詞」はどのような背景で生み出されたのか,という課題をさらに深める。その際こんにちの学校文化としての「誓い」(~宣言)の存在も意識しながら検討を進める。 第二に,音と声という研究課題を,さらに身体性全般やジェンダーへと視角を広げてアプローチすることである。理由は,「(研究ノート)韓国併合直後の公立普通学校-「草渓公立普通学校沿革誌」を手がかりとしてー)(『教育史フォーラム』16、教育史フォーラム・京都、2021年6月 85~98頁)においては,普通学校の創立が地域の男性と女性に異なる意味合いを有していたことが推定されたため,そして,「帝国日本の身体髪膚」(国際シンポ「近代東亜体育世界與身体」(台湾成功大学、オンライン開催)、2021年5月14日)においても,男性の「文明」への接近と女性のそれとは非常に異なる特徴がみられるためである。 第一の課題については、年度中の公表を目指し、1920年代から1930年代にかけて、朝鮮にいわゆる官製青年団(青年会)が結成されていった様態について、地域の特性や関与した人物の履歴などを、可能な限り明らかにしたい。第二の課題については、次年度あらたな科学研究費申請を目指し、準備を進めることとする。
|
Causes of Carryover |
計画段階では,最終年度に国際研究集会(シンポジウム)を計画し,教育慣行やいわゆる学校文化における身体性について議論することになっていた。しかし,世界規模の感染症の拡大によって中止せざるを得ず,無駄に基金を利用することもできず,研究期間の延長を申請せざるを得なかった。
|