2021 Fiscal Year Research-status Report
「創造性」を育む「社会的協働学習」に関する国際比較研究―実践モデルの構築に向けて
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19K02516
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
尾崎 博美 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 准教授 (10528590)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 創造性 / 協働性 / 「知」の様式の再構築 / 「教える―学ぶ」営み / 関係性 / ケアリング / 概念分析 / 地域貢献 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、本科研の3年目にあたり、前年度に新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて実施が困難となったフィールド調査の一部を実施した。フィールド調査は、国立民族学博物館、大阪ナレッジキャピタル、岩手県立美術館、岩手県民除法交流センター等を対象とし、「社会的協働」実践の文脈において推進される企画・活動の特徴に関する資料収集等を行った。特に、近年の「社会的協働」においては、産-学-官、地域-学校-家庭の連携のみならず、SDGsのような国際的視野に立つ目標設定や課題解決プロセスが想定されていることが明らかとなった。加えて、「社会的協働」の文脈における地域活性化を通しての「学習」実践について、横浜市を対象とするフィールド調査を行った。 また、「社会的協働学習」のアクターの一つとなる学校外教育リソース(教育エージェント)について情報収集を行い、複数の企業及びNPOへのインタビュー調査をオンラインで実施した。インタビューでは、学校と社会とを連結する学習・実践の必要性及びその課題について情報収集を行い、蓄積された実践から当該課題に関する知見を得た。 文献調査及びフィールド調査分析においては、「社会的協働」と「学習」とのより密接かつ実現可能なフレームワークを検討するべく、主としてジョン・デューイの進歩主義思想、G.ライルの理知性に関する文献の分析を行い、研究会等での報告を行った。 今年度は主として国内を対象とするオンライン及び対面でのフィールド調査・インタビューが中心となり、本研究課題に関する事例を収集することができた。また、「協働」に関するプロジェクト概念についての分析を進め、その一部を「プロジェクト活動を通じて得る・学ぶ「共同生産者」の視点」(『社会科学からみるSDGs』2022年 小鳥遊書房 共著)に収録した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、当初の計画では科研の最終年度に当たり、文献調査及びフィールド調査結果を分析しモデル構築を行う過程として位置づけていた。実際には、2020年度に新型コロナウイルス感染症拡大の影響で実施できなかったフィールド調査について、国内計画分はその大部分を実施することができ、新たな対象開発を行うこともできた。 その一方で、国際比較の対象となるフィールドでの実地調査は同感染症の影響が未だ大きく、実施することができなかった。そのため、科研研究期間を延長し、国内外での調査の最終段階を推進するとともに、「社会的協働学習実践」が構築し得る「知」(体験と思考をつなぐ生活知・実践知)の体系に関する更なる調査・分析活動を要する。 以上のことから、本科研の進捗状況を「やや遅れている」と判断し、新型コロナウィルス感染症の影響に伴う延長申請を行い、2022年度に継続して研究活動を進めるものとする。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、本科研の最終年度として、以下の2点を予定する。 1.当該科研で推進ししてきた文献調査・概念分析結果をまとめ、「協働」「ケア」「関係性」といった概念レベルからの分析を進める。国際比較における東洋・西洋の差異と共通点を「協働」「ケア」「関係性」を軸にして報告・論文等にまとめ成果として発表する。 2.新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて以下の3種類のフィールド調査及びインタビュー調査を実施する。第一に国外を対象とした対面でのフィールド調査である。調査対象地域は、主としてイギリス、アメリカ、イタリアであり、これまでの当該科研調査結果を踏まえて比較軸を構築した上で調査及び分析を行う。第二に国内の「学校外教育リソース」及び「教育エージェント」を対象とした、概念分析の材料収集のための調査である。実践事例については、2021年度までのフィールド調査で大部分の結果を得ることができた。2022年度の調査では、調査対象にフィードバックを行い、データ比較等も行うことによって、実践と理論の連結を目指す。第三に、地方公共団体を対象とするフィールド調査である。これまでの「学校外教育リソース」では、企業・NPO法人等が主となっていたが、「地域社会」への視点の重要性を補完するため、地方公共団体がもつ「学校外教育リソース」としての特徴・課題の調査を行う。 以上の結果分析を通して、「生活を通しての学習」を形成する生活環境の実現可能性とそのモデルの構築を試み、「生活環境」としての学校-家庭-地域がもつ教育的意義及び効果に関する提言や新たな知見を提示する。さらに、当該科研のフィールド調査で得られた実例を哲学的・原理的分析を行うことで、「学校外教育リソース」及び「教育エージェント」の協働による「社会的協働学習実践」を創り出す実践の提案へつなげることを目指す。
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Causes of Carryover |
2021年度は、2020年度の新型コロナウイルス感染症拡大のために実施できなかったフィールド調査の内、国内を対象とする対面でのフィールド調査、及びオンラインで可能な範囲での調査及びインタビューを実施することができた。しかしながら、国外を対象とするフィールド調査については同感染症の影響が甚大であるために実施ができず、2020年度・2021年度に計上した海外調査が実施不可能となった。 その結果、当初計上していた出張旅費の利用は大幅に減額となったため、次年度使用額が発生した。国外を対象とするフィールド調査、及びオンラインでは実施が困難と想定されるフィールド調査については、2022年度中に実施を行い、研究成果としてまとめる予定である。
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