2022 Fiscal Year Annual Research Report
非西洋後発国における業績主義とエリート間葛藤の関係性に関する比較教育社会史的研究
Project/Area Number |
19K02537
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
武石 典史 電気通信大学, 情報理工学域, 教授 (00613655)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 後発国 / 文民 / 試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、第一に「葛藤」の主要アクターである文民(官僚)・軍事(将校)の両エリートのそれぞれの階層性と「学歴・成績」の対応性を明らかにしつつ、「業績的特徴」および「葛藤の背景」を検討した。 たとえばブラジルでは庶民への学校教育の普及が遅れたため、学校は上級階級を再生産する装置として機能し、寡頭制を維持する一要因となった。官僚の任用は縁故主義に基づいていたため、上流階級の優位性が長く続き、それは任試導入後も大きく変わらなかった。対照的に陸軍は試験や学歴により示される能力に基くメリトシステムを早々に確立したことで、中間階級出身者が将校団の中心となった。業績主義のもとで専門性を高めてきたという自負が、官僚に対する将校の優越感を生じさせたわけであり、つまり「縁故主義」と「業績主義」の相克もまた、不調和の要因だった。 第二に、アジア地域における近代学校教育の制度化過程と海外留学をめぐる動向について分析したうえで、近代官僚の選抜・養成をめぐる問題を考察した。 たとえば、西洋の衝撃に直面した清朝は、近代西洋の進んだ諸技術を導入して「自強」を目指したが、科挙体制と結びついた古典重視の伝統的な学問体系が1920年頃まで維持されたゆえ、諸技術を運用できる、近代的教育を受けた人材を輩出できなかった。一般にアジア地域の後発国は、近代化の開始とともに近代学校制度の構築が始まることが一般的なので、政府はその構築を進めつつ、欧米に留学生を派遣する。西洋技術を摂取した彼らは帰国後、一定の役割を果たした。 近代的教育の開始から定着までの期間と、留学に依存していた期間とはほぼ重なっていた。中国において近代的教育が「国産化」されるまでの間、海外留学はその代替的役割を担っていた点を指摘した。
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