2021 Fiscal Year Research-status Report
教育における障害者差別解消の推進と自治体教育政策過程との相互関係に関する研究
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19K02544
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小松 茂久 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50205506)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 障害者差別解消法 / 障害者差別解消条例 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年に「障害を理由とする差別の解消に関する法律(障害者差別解消法)」が制定され平成28年から施行された。この法律の制定によって自治体は多様な施策を推進することとなるが、それらの相違は何によってもたらされるのか。都道府県レベルの教育行政の態様を解明する手がかりとなる。 令和元年度においては、都道府県障害者差別解消条例における教育関連条項を分析し、その結果、条例の「先進性」の観点から長崎県と滋賀県の条例に着目することの重要性を見いだすことができた。 自治体における障害者差別解消のための施策には条例だけでなく、不当な差別的取扱と合理的配慮の不提供を禁じ、自治体職員が適切に対応するために必要な対応要領の作成が努力義務となっている。 そこで、令和2年度においては、文部科学省と都道府県の対応要領の分析を進めた。すなわち対応要領のみでなく、対応要領に付随した留意事項の様式や内容構成や合理的配慮の事例などにも範囲を広げて検討を加えた。つまり条例や対応要領に関連して特色のある個別自治体での障害者差別解消に関わる教育政策、教育行政の事例研究を文献レベルではあるものの検討を加えた。 令和3年度において中心的な分析対象としたのは、自治体における議会議事録である。それらの検討から、議会内における与野党に関わらず、鍵となる議員の発言や行動、自治体首長の意向、教育委員会や福祉部局の担当者の実務上の対応など、これらのアクターの相互作用によって、条例や対応要領の相違が生じているとの予測を持つことができた。条例や対応要領の作成過程と自治体教育行政の特色との相互関連を解明しようとする本研究の目的に一歩近づく見通しを持つことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以下の2点において、本研究が現在までの進捗状況として「やや遅れている」ことの理由である。 第1に、対面のインタビュー調査を実施できなかったことである。障害者差別解消に関わる条例や対応要領を媒介として、自治体の教育行政の特色と課題を解明しようとする本研究の目的の観点から、自治体議員の行動、自治体首長の意向・判断、教育委員会や福祉担当部署の行政活動など、障害者差別解消施策の推進に関わる諸アクターの意向、影響力、活動の実態を詳細に分析しなければならない。そのためには、直接に自治体に出向いて、インタビュー調査を実施する予定であった。ところが、令和2年度、3年度とも新型コロナ禍によって、出張やインタビューの実施が困難をきわめてしまうこととなった。文献だけからは読み取ることのできない政治過程についての詳細な事実や、諸アクターの「ホンネ」と「タテマエ」など、電話ではなく対面でのインタビューでしか得られない情報を獲得できなかったことが研究を「やや遅れている」状況にした主因である。 第2には、上記とも関連するが、政治過程のアクターの中で障害児・障害者の各種団体、社会福祉協議会、各種市民組織など、政治過程のエスタブリッシュメント以外の障害者差別解消に関わる団体や組織の分析や実態についてまったく未解明のままである。この研究手続きも、文献から解明することは極めて困難であり、対面でのインタビューが不可欠である。 いずれにしても、条例や対応要領の作成過程と自治体の教育行政過程の特色との相互関連を解明しようとする本研究の目的に一歩近づくためには、これらの作業が不可欠である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年の4月時点において、新型コロナウィルスによる外出制限、出張制限は令和2年や令和3年と比較するといくぶんか緩和されている。この状況が続くことによって、今後の研究の進展が期待される。 まずは、当初予定していた特色ある自治体への対面インタビュー調査の実施である。都道府県議会の会期中は議員のみならず教育委員会や福祉担当部署も多忙を極めるので、この時期を外してインタビューを試みる予定である。また、自治体行政組織以外にも教育政策過程における重要なアクターとなっているであろう各種団体や組織にもアプローチを試みて、障害者差別解消施策への関与や影響力を明らかにする予定である。各種団体や組織として、たとえば、社会福祉協議会、障害者団体、特別支援教育関係などを想定している。これらの諸アクターの意向や活動や動向が障害者差別解消施策に影響を及ぼしたのか否か、及ぼしたとすればいかなる程度にか。このメカニズムを解明することは、障害者差別解消政策のみならず、その他の教育政策をめぐる政治過程の解明のためにも十分な示唆を得ることができると確信している。
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Causes of Carryover |
本研究を推進するために、文献調査だけでは見えてこない事実を明らかにする必要がある。そのために、自治体に出張して対面でのインタビューの実施を計画していた。ところが、およそ2年間にわたって継続した新型コロナ感染の蔓延で、具体的には「まん延防止等重点措置」や「緊急事態宣言」の発出によって勤務校から出張制限がかかるとともに、対面インタビューを予定していた相手からも、多数の感染者数を記録していた東京からの調査訪問を忌避する傾向がみられた。そのために、予定していた出張調査が実施できず、次年度使用額が計上されることとなった。
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