2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K02554
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
加藤 美帆 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60432027)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 登校拒否 / 家庭教育 / 映像アーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、戦後から現代までの長期欠席現象を包括的にとらえ直すことである。具体的には、(1)占領期から1950年代にかけての長期欠席の問題化と解決(2)1980年代における登校拒否の問題化過程(3)2016年の教育機会確保法成立前後における社会動向、に焦点をあてた分析を行うことを計画している。 2019年度には、主に1980年代における教育相談番組の映像アーカイブ分析を行った。NHK教育テレビで放送された家庭教育番組「おかあさんの勉強室」は、社会教育事業の一貫として学校と家庭をつなぐ役割を期待されてもおり(津田 2013)、登校拒否はテーマとしてたびたび取り上げられていた。本研究では、登校拒否を主なテーマとした13本を分析対象として検討した。 この分析から特徴的な点で浮かび上がったのは主に以下の2点である。一つは、「家庭面ジャーナリズム」(林 2009)にも似た独自の批判性であり、当時の主流とは異なる登校拒否像を提示しようとする試みが「おかあさんの勉強室」のなかにも確認することができた。これは、当時において登校拒否の原因とされ、子どもの養育責任を問われていた母親たちの声が反映されたことによると考えられる。もう一つは、登校拒否の背景としての母親の養育責任という捉え方を否定している訳ではなく、主体的に、自らの声でそれを引き受けるという母親像である。学校や学歴社会への批判の一方で、近代家族的な家族観や母親の役割は肯定的に受け容れ、それらが大きな葛藤や齟齬なく並立しているという独特の状況だが、当時の母親たちの社会運動が学校中心の社会への批判を行いつつも母親役割を一層受け入れていくというねじれがみてとれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は2019年度から2023年度までの5年計画としており、一年目は1980年代の映像アーカイブ分析を主に行った。二年目以降には、戦後の長期欠席の問題化過程、および現代の教育機会確保法成立後の状況についての分析へと展開をすることを予定している。進捗状況としては、ほぼ計画通りにすすんでいる。ただし、2019年度末からの新型コロナウイルスの蔓延に伴う国内外の移動の困難、および図書館、文書資料館等の閉館にともない、一年目の最後の時期に計画していた資料収集は断念せざるを得なかった。これらについては時期をあらためて調査を実施することを計画しているが、今後の状況次第では計画の変更等の必要性がでる可能性はある。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目である2020年度は、戦後の長期欠席の問題化過程、および現代の教育機会確保法成立後の状況についての調査研究へと展開をすることを予定している。ただし、2019年度末からの新型コロナウイルスの影響に伴う移動および実地調査の困難があるため、状況次第では計画の変更も視野にいれる必要はある。一方で、この状況においては、登校を忌避する子どもの増加、リモート化による家族問題の可視化、公教育のあり方の問い直しなど、本研究の問いと重なる変化が急速に加速していく可能性が高い。「コロナ後」の社会変化を踏まえた新たな分析課題を探索しながら、研究計画を遂行していく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延のために資料収集予定の図書館等が閉館になったため出張をとりやめたことにより次年度使用額が生じた。年度をあらためて同じ目的の調査出張費として使用する予定である。
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