2019 Fiscal Year Research-status Report
教育財政ガバナンスの理念と構造に関する日・米・英制度比較研究
Project/Area Number |
19K02560
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石井 拓児 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 准教授 (60345874)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 教育財政 / ガバナンス / 福祉国家 / 高等教育 / 競争的資金 / 学校 / 政府 / 審議会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、福祉国家型教育財政制度の原型を確かめるために、主にアメリカ州立大学における財政自主権が、イギリスにおけるUGC(Universities Grant Committee、高等教育財政委員会)の機能と役割に注目し検討をすすめた。また、1980年代以降、イングランド・ニュージーランドで新自由主義大学改革が席巻するが、イングランドでは1996年にHigher Education Funding Council for England(イングランド高等教育財政審議会)、ニュージーランドでは2000年に高等教育諮問委員会(Tertiary Education Advisory Commission、2003年に高等教育委員会(Tertiary Education Commission)に改組)といった財政配分権限を有する新しい機関の設立と、研究成果に基づく財政配分方式(RAE、PBRF)を調査した。これらの審議会・委員会が、政府・文部省からの独立性をなおも担保し、財政配分決定については各高等教育機関の代表者との協議にもとづき決定している。財政配分の方針と方式は公開が原則とされ、審議会や委員の任命は団体(学術団体や大学教員組合、学生自治会等)からの推薦にもとづき、推薦された委員候補者については利害関係の有無についてもすべて公開されている。大学運営費補助金は一括で交付され、その使途は各高等教育機関の自由裁量に任される。こうした政府・文部省からの独立性、財政配分の透明性の確保、そして委員メンバーの専門性と代表制を担保してきた制度措置の結果、競争的な財政配分はきわめて部分的な導入に止まっている。こうした政府から独立した財政配分組織(intermediate agencies or buffer bodies)はアイルランドにも存在することを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日米英の教育財政ガバナンスの仕組みを検討するために、まずは各国の制度的特質や歴史的経緯について基礎的な情報収集をすすめることができており、初年度の成果とはおおむね順調である。
|
Strategy for Future Research Activity |
イングランド高等教育財政審議会は2018年3月31日に閉鎖され、同年4月1日よりUK Research and Innovation (UKRI)と Office for Students(OfS)に改組されており、新しい制度・組織の状況を新たに把握する必要が生じている。 また、スウェーデンの場合も、省(ministries)から独立した国家機関であるNational Agency for Higher EducationとNational Agency for Services to Universities and University Collegesが設置され、前者が大学に対する評価や質保障、政策分析、法や規定への適合状況審査等を行い、後者が財政配分を行うというように、政府からの独立性を保ちつつ、かつ評価と財政配分とを容易に連動させないための制度措置がとられている。なお、スコットランドとウェールズでは補助金をすべての高等教育機関に均等配分しており、これらの仕組みについても調査をすすめる。
|