2021 Fiscal Year Research-status Report
教育財政ガバナンスの理念と構造に関する日・米・英制度比較研究
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19K02560
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石井 拓児 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (60345874)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 教育行財政 / 学校づくり / 福祉国家 / 日本型企業社会 / 新自由主義 / 過労死 / 過労自殺 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、次の二つの課題において大きな進捗がみられた。第一に、日本の福祉国家制度が特殊に形成される1950年代(第Ⅰ期)、日本型企業社会が成立する1970年代後半以降(第Ⅱ期)、さらには新自由主義的諸改革が整備される1990年代以降(第Ⅲ期)のそれぞれにおいて、日本型の教育行財政構造がどのように変容してきたのかを確かめ、日本の教育実践・教育運動がこれにどのように対応してきたのかを「学校づくり」という教育実践概念に即して検証を行った。この研究成果は、石井拓児『学校づくりの概念・思想・戦略-教育における直接責任性原理の探究-』(春風社、2021年12月)として公刊した。第二に、最新の統計データを活用して高等教育授業料の無償化をめぐる近年の欧米各国おける動向を検証した。授業料負担をめぐる日本の特殊性を明らかにするとともに、アメリカにおける新しい授業料無償措置(プロミスプログラム)を取り上げ、その制度論的特質の分析を行った。本成果は、石井拓児「高等教育授業料をめぐる国際的動向と高等教育財政研究の理論的課題-アメリカの授業料無償化政策の現段階と公私混合負担の日本的特質をめぐって-」(2022年1月、http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/90008951.pdf)として論文発表を行った。 また、科研のテーマに関わって、日本型企業社会の特質とそのもとでの教育費の私的負担の広がり、若い世代に広がる過労死・過労自殺問題を取り上げ、高校生・大学生向けの学習教材(石井拓児・宮城道良『高校生・若者たちと考える過労死・過労自殺-多様な生き方を認める社会を-』学習の友社、2021年7月)を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究成果の積み上げをふまえ、戦後日本における「福祉国家論」の特殊性を手がかりとして教育・教育行政における国家統制的制度性格の解明をすすめ、日本型教区行財政制度の基本的な問題状況を明らかにすることができた(石井拓児『学校づくりの概念・思想・戦略-教育における直接責任性原理の探究-』春風社、2021年12月)。また、欧米各国の教育行財政制度との比較についても、高等教育財政分野を中心として順調にその分析をすすめることができている(石井拓児「高等教育授業料をめぐる国際的動向と高等教育財政研究の理論的課題-アメリカの授業料無償化政策の現段階と公私混合負担の日本的特質をめぐって-」、2022年1月、http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/90008951.pdf)。 また、論文としての成果発表には至ってはないものの、イギリスや北欧諸国における福祉国家成立期における教育行財政の制度的展開に関する資料の収集に着手することができ、徐々に資料分析もすすみつつある。 以上により、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度が、本科研の最終年度となるため、いよいよ総括的研究の段階に入ることになる。福祉国家構想期(1920年代~30年代)、福祉国家制度確立期・国家財政拡大期(1950年代~60年代)、福祉国家制度動揺期・国家財政縮小期(1980年代~90年代)の各期ごとの教育行財政制度の特質を、日・米・英のそれぞれの歴史性をふまえて検証を進めることになる。 そのうえで、福祉国家構想期において、英・米・独を訪問し、それぞれの国家における教育行財政制度の分析を行った阿部重孝の研究にあらためて光をあてることとなる。そのことによって、日本において十分な制度展開がみられなかった「教育の自主性と教育行政の独立性」を保障する「もうひとつの教育財政ガバナンス」の可能性とその制度原理の究明をすすめていくこととなる。 以上の研究成果は、できれば研究書(書籍)として出版することを目指す。
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Causes of Carryover |
わずかな金額の剰余が生じてしまったため、無理に使用するのではなく、次年度において執行したいと考えた。とりわけ次年度は、本科研の最終年度にあたるため、海外ジャーナルへの投稿を含め研究成果発表あるいは研究書の発行等にそれなりにこれまでにないような費用負担が生じるものと考えている。
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