2019 Fiscal Year Research-status Report
1920年代日本の中等学校入学難問題にみる選抜の公正性に関する研究
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19K02573
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石岡 学 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (00624529)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中等学校入学難 / 選抜の公正性 / 1920年代 / 進路問題 / 入学試験 / 試験地獄 / 教育測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、申請書の研究計画に基づき、先行研究や当時の統計資料等の整理を行い、1920年代において「中等学校入学難」が社会問題化し「入試改革」へと焦点化していった背景について、解明を進めてきた。その結果は、①人口動態の変化、②学校衛生の普及、③教育測定への関心増大、の三点にまとめることができる。以下、具体的に述べていく。 ①については、義務教育の皆卒業が達成されたことで「卒業後の進路」という教育問題の新たなフェイズが登場したこと、それにともなって中等学校進学希望者が増加したことが挙げられる。特に都市部においては、新中間層(近代的性別役割分業に基づく家族形態をもつ社会階層。夫が就く職業は官公吏・会社員・教員などの近代的職業であり、いずれも就職するにあたって学歴が要件となる)が一定のボリュームを持ち始めたことによって、学歴への関心が高まってきたことも大きく関連している。 ②については、学校衛生の普及によって児童の心身発達に対する関心が高まり、その結果として心身発達上の「問題点」に注目が集まるようになったことが挙げられる。特に①を背景とした入学試験の激化もあり、過度の試験準備教育が児童の心身に「悪影響」をもたらすおそれのあることが、問題視されるようになった。 ③については、個性重視を掲げた新教育運動とも関連して、児童の能力・個人差を「科学的」に判定する教育測定への関心が増大し、従来から行われてきた試験方法を見直すべきだとする機運が高まってきたことが挙げられる。なお、新教育運動と教育測定は、いずれも当時の海外における教育思潮に影響を受けたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書において立案した研究計画では、本年度に先行研究の知見や当時の統計資料等を整理し、事実レベルで中等学校入学難問題の社会的背景をおさえることを予定していた。 実際には、上記「研究実績の概要」の通り、いずれの作業もほぼ当初の計画通りに進捗しており、「おむね順調に進展している」との評価が妥当であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度においては、申請書の研究計画に則り、分析対象となる資料の調査・収集を進めていく。具体的には、①中等学校入学難問題や入試方法(メンタルテスト等も含む)に関する書籍、および②教育雑誌(『教育週報』、『教育時論』、『帝国教育』、『教育論叢』、『教育研究』、『学習研究』、『学校教育』、『小学校』、『児童教育』、等)における中等学校入学難問題を扱った記事を、調査・収集の対象とする。これらに加えて、申請書の計画には記載しなかったが、『朝日新聞』『読売新聞』等の記事も分析対象に含めることとして、その調査・収集も行っていく予定である。 これら資料の調査・収集が予定よりも捗々しい場合には、資料の分析にも取り組んでいく予定である。分析にあたっては、まず、入試撤廃期成同盟の動きなどを中心に、いかなるアクターがいかなる活動を展開していたのかを、歴史的事実として明らかにしていくことから始めていくこととする。そのうえで、入試のあり方をめぐってどのような主張がなされたのか、特に論者の立場の差異に注目し、抽出と整理を行う。
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Causes of Carryover |
研究遂行にあたって必要となる参考資料(古書)の納品が、当該年度の執行日までに間に合わなかったために生じたものである。翌年度の日付で執行するため(すでに執行済み)、全体の研究計画にとって大きな支障はない。
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