2020 Fiscal Year Research-status Report
異文化間教育の抱える課題とその克服に向けた理論的研究-移民社会ドイツに着目して-
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19K02577
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
伊藤 亜希子 福岡大学, 人文学部, 准教授 (70570266)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 移民社会 / ドイツ / 多様性 / インターセクショナリティ / 異文化間教育の課題 / 教師教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、移民社会ドイツにおける異文化間教育の課題とその克服に向けて展開される政策、研究、実践の相互作用に着目し、この三者間の相互作用がいかに有機的に結びつけば、包摂社会の構築に向けた異文化間教育の実現に至るのか、その実相について理論的研究を行うことを目的とする。 具体的には、異文化間教育の抱える課題の克服に寄与する2013年異文化間教育勧告と異文化間の学校開発に着目する。この勧告を制度的基盤にした連邦及び州レベルの政策展開、異文化間教育関連研究の進展、異文化間の学校開発に資する実践の普及から、政策、研究、実践の三者間の連関を捉える。 初年度の研究成果から、異文化間教育における多様性や公正(正義)概念の位置づけ、移民背景を持つ教師の導入、教師の異文化間能力に関する議論がさらなる検討課題として見いだされ、本年度はこれらを踏まえた調査研究を実施する予定であった。特に、移民背景を持つ教師の導入、教師の異文化間能力に関する議論に大きく関わる異文化間の学校開発の実践について現地調査を実施する予定であったが、新型コロナウイルスの世界的な流行のため、現地調査を実施することができなかった。そのため、異文化間教育の理論的研究をさらに追究することとし、以下の2点について文献研究を進めた。第一に、ドイツの異文化間教育学における差異を巡る議論についてインターセクショナリティの視点から整理すること、第二に、移民社会ドイツにおける教師の専門職性に関する議論を整理することである。これらから、インターセクショナリティを理論的分析枠組みとした際、権力への問いが異文化間教育学において不十分であると課題が浮上したことを明らかにした。さらに、教師教育との関わりにおいては、批判的人種理論の影響を受けた議論が展開されていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、現在のところ遅れている。 2020年度は現地調査を本研究の中心に据えていたが、実施できなかったために研究の進捗は遅れている。また、発表予定であった日本比較教育学会第56回大会(2020年6月)をはじめ、国際異文化間教育学会(International Association for Intercultural Education)2020年アテネ大会(2020年12月)も新型コロナウイルスの世界的流行を受け中止ないし延期を余儀なくされ、研究発表や研究交流の機会を逸した。 しかしながら、本研究課題に関わり研究交流を続けているブレーメン大学のProf. Y. Karakasogluに日本の異文化間教育や外国人児童生徒教育を巡る教育政策について論考を寄せる機会をいただき、彼女を編者の一人とする研究論集に英語論文を寄稿することができた。このプロセスで彼女の研究チームと交流する機会を得、研究を進めるにあたっての有益な知見を得た。また、ドイツ教育学会(DGFE)第3セクション異文化間・比較教育学(SIIVE)の年次大会(2021年2月)がオンラインで開催されたため、それに参加し、最近の研究動向について情報収集を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、申請当初の計画では本研究の最終年度にあたる。そのため、2019年度、2020年度に行った文献研究を踏まえ、とりわけ以下の点に焦点化し研究を進めたい。第一に、批判的人種理論の影響を受け議論が展開されている移民社会における教師の専門職性について検討する。これは移民背景を持つ教師の導入や教師の異文化間能力、異文化間の学校開発の議論とも関わるものである。第二に、移民社会における教師の専門職性に関する議論が、いかにして移民をはじめとする多様な差異を持つ人々を包摂する社会の実現に寄与するのか検討する。これは、インターセクショナリティを理論的分析枠組みとした際に浮上した権力への問い、換言するならば、権力構造を維持する制度的・構造的差別といった異文化間教育の課題に、いかに取り組みうるのかということである。これらについて、政策、理論、実践の三者間の連関を意識して整理し、異文化間教育学会や日本比較教育学会での発表、所属機関の研究紀要や学会紀要への論文投稿を目指す。しかしながら、実践に関しては現地調査が欠かせないことから、新型コロナウイルス感染症の収束が見込めず、現地調査の見通しが立たない場合は研究期間の延長も念頭に置きながら、研究を推進する。
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Causes of Carryover |
2020年度は本研究の2年目にあたり、2度の現地調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行のため現地調査が不可能となった。そのため、予定していた旅費の支出はなされず、文献研究のための資料収集に支出が限られたことが理由である。 2021年度に繰り越した未使用額については、現地調査ができない間に収集を進めた電子媒体の資料の保管・閲覧用のタブレット購入、引き続き収集する異文化間教育・反人種差別関係図書・資料の購入、新型コロナウイルスの状況が落ち着いた際の現地調査に向けての旅費に用いる計画である。
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