2020 Fiscal Year Research-status Report
子どもの生活と学びをつなぐ「預かり保育」の絵本カリキュラムの開発
Project/Area Number |
19K02613
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
横山 真貴子 奈良教育大学, 学校教育講座, 教授 (60346301)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 預かり保育 / 絵本 / 幼稚園 / カリキュラム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、幼稚園教育要領(2017)において作成が求められている幼稚園の「預かり保育」のカリキュラムを絵本に着目して開発することである。「預かり保育」は、実施形態も利用する園児の実態も多様であるため、カリキュラムの作成は容易ではない。そこで本研究では、子どもが生活する場のどこにでもある絵本に着目し、(1)縦断調査で子どもの生活全般を取り上げ、子どもと絵本との関わりの発達的変化を学びを中心に描き出しながら、(2)横断調査で先進園を訪問調査し、(3)「預かり保育」の絵本カリキュラムを開発することを目指す。 2020年度は、(1)縦断調査において、4歳児2クラス43名を対象に、協力園の預かり保育の実施状況を把握した。協力園の預かり保育は、週3日、9カ月間にのべ70回実施され、4歳児の利用者はのべ341人、60回以上2人、30回1人、9~10回7人、1~7回18人、0回15人、1日の平均利用者は4.9人だった。1日の利用者は常時利用者と単発利用者が半々という結果だった。環境は、新型コロナウイルス対策として部屋のレイアウトが変更され、9月半ばからは空間を広くとるために遊戯室に変更された。 このように2020年度は環境が保育室とは大きく異なることもあり、子どもにとっての「預かり保育」は、教育時間の保育活動とは独立した経験として捉えられた。それゆえ、安心して過ごす居場所の確保が必要とされたが、どういった環境でも1人で手に取り楽しむことができる絵本はその機能を果たすことが確認された。選書においては、興味を引きやすく文字が読めなくても楽しめる仕掛け絵本は4歳児においても有効だった。ただし、5歳児となり環境に慣れてくると、絵本に求められる機能が変化することも推察される。発達や経験に応じたカリキュラム作成の必要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、協力園の休園、保育再開後の預かり保育の中止、保育室環境の変化など、予定していた(1)縦断調査の観察が十分に実施できなかった。また、保護者へのアンケート、及び(2)預かり保育先進園への訪問調査も年度内の実施を見送った。(1)縦断調査で子どもの生活全般を取り上げるために実施予定であった保護者アンケートは、3歳児でも実施できていないため、5歳児で3か年分を振り返る形でまとめて問うこととした。(2)横断調査として実施する先進園の視察訪問については、2021年度新型コロナウイルスの感染収束後に行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は2020年度までに得られた3,4歳児の縦断研究の結果を踏まえ、(1)5歳児の縦断研究を実施する。また(2)横断調査として、預かり保育先進園への視察調査を実施する。これらの結果を総合的にまとめ、(3)預かり保育の絵本カリキュラムの作成を目指す。 (1)縦断研究では、進級した5歳児を対象に、①幼稚園の正規の教育時間と②預かり保育の時間の観察を1日を通して週1回実施する。いずれも(a)絵本との関わり、(b)絵本環境、(c)絵本に関わる活動、(d)学びの4点について観察する。①の正規の教育時間の場面は、写真撮影とともにビデオ録画し、フィールドノーツへも記録する。加えて保育者へのインタビューを行い、保育者の保育観や絵本の位置づけなどについて尋ねる。②の預かり保育では、部屋全体を録画できるようにビデオカメラを設置し、①同様、写真撮影、フィールドノーツへの記録も行う。また保育者へのインタビューも実施する。①②は、研究結果を保育者、預かり保育担当者と振り返り、絵本環境の再構成を行うアクション・リサーチの手法をとる。③家庭に関しては、学年末3月に、保護者に対象児の(a)家庭での絵本との関わり、(b)絵本環境、(c)絵本に関わる活動、(d)学びについて問うアンケート調査を実施する。この調査は、全学年を対象とする。 (2)横断研究として、「預かり保育」のカリキュラムを作成、実施している先進的園を訪問調査し、上記(a)(b)(c)(d)の4観点からカリキュラムを分析する。(1)(2)の結果をまとめ、(3)預かり保育の絵本カリキュラムの作成を目指す。 これらの研究成果は、国内の所属学会(日本乳幼児教育学会:12月福山,日本発達心理学会:2022年3月)に参加し発表する。
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Causes of Carryover |
主要な理由は、人件費・謝金の未使用である。人件費として、観察の録画データの文字化と保護者アンケートの結果入力を計上していたが、これらを次年度に繰り越した。観察の録画データの分析に関しては、4歳児でも教育時間と預かり保育の観察データに直接的な関連が見られなかったため、質的分析に備え行動を丁寧に文字化するのか、特定行動の出現頻度のカウントか、録画データの処理方法を確定することができなかった。分析方法決定のためには、3歳児から5歳児までの結果を見通した比較検討が必要と判断し、2021年度に5歳児の観察結果を見ながら研究方法を確定した後、録画データの分析を依頼することとした。アンケート調査に関しても2021年度に実施し、分析を依頼する。 次年度は1,160,000円の予算を使用する予定である。 (1)縦断研究で900,000円。内訳は物品費400,000円(データ保存用HD100,000円、絵本・書籍等100,000円、インクトナー等200,000円)、人件費500,000円。(2)横断研究で260,000円。内訳は2箇所の視察調査の旅費として100,000円(横浜・東京各1泊2日)。その他旅費として、学会及び研修会参加等のための交通費110,000円(福山25,000円:12月1泊2日、東京等での研究会参加費85,000円)、学会等参加費50,000円の使用を計画している。
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