2022 Fiscal Year Research-status Report
子どもの生活と学びをつなぐ「預かり保育」の絵本カリキュラムの開発
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19K02613
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Research Institution | National Institute for Educational Policy Research |
Principal Investigator |
横山 真貴子 国立教育政策研究所, 幼児教育研究センター, 総括研究官 (60346301)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 預かり保育 / 絵本 / 幼稚園 / カリキュラム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、幼稚園教育要領(2017)において作成が求められている幼稚園の「預かり保育」のカリキュラムを絵本に着目して開発することである。「預かり保育」は、実施形態も利用する園児の実態も多様であるため、カリキュラム作成は容易ではない。そこで本研究では、子どもが生活する場のどこにでもある絵本に着目し、①縦断調査で子どもの生活全般を取り上げ、子どもと絵本との関わりの発達的変化を学びを中心に描き出しながら、②横断調査で先進園を訪問調査し、③「預かり保育」の絵本カリキュラムを開発することを目指す。 2022年度は、協力園のクラス編成及び預かり保育の体制が大きく変化した。新たに満3歳児保育が開始され、預かり保育も週3回から土日を除く週5回の実施となり、11カ月間にのべ166回実施された(2021年度94回)。そのため、全体的な傾向の把握を重視し、①縦断調査では全クラスの利用状況を調査した。利用者はのべ2,229人、1回の平均利用者は13.4人だった。利用回数は0回22人(20.8%)、1~30回65人(61.3%)、100回以上は3人(2.8%)であった。 預かり保育の環境、子どもの活動も変化した。満3歳児の利用者が3学期に増加することを踏まえ、低年齢児向けの絵本を増やし、くつろぐスペースとして大判のカーペットを敷いた絵本コーナーを入口から目に入りやすい場所に設置した。その結果、絵本コーナーの利用率が高まり、保育者の関りも増えた。保育者がコーナーにいると、子どもが来る頻度も上がり、自分で絵本を読む姿も増えた。絵本コーナーをどのように設置し、保育者がいかに関わるかが、子どもの絵本への関りに大きく影響した。カリキュラム作成においては、預かり保育における絵本の位置づけをどう捉え、環境を設定していくのかを明確にすることの重要性が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2022年度は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、縦断調査、横断調査とも、十分に実施できなかった。加えて協力園での縦断調査では、園のクラス編成、預かり保育の実施体制が大きく変更されたため、預かり保育の利用状況も変化した。そのため、前年度までの研究との連続性が保たれず、「預かり保育」の絵本カリキュラムの作成も再考が余儀なくされた。もとより多様な形態が特徴の預かり保育である。汎用性の高いカリキュラム開発のためには、今年度の状況変化に伴う利用状況を踏まえ、改めてカリキュラムを編成することが必要となった。また横断調査として、新型コロナウイルス感染症の収束後に実施予定だった先進園の視察訪問も、カリキュラムを取り寄せ、内容の分析は進めたが、実際に園を訪問することはできなかった。 さらに協力園では次年度において、預かり保育の時間帯の拡大が検討されている。現在の保育終了後の午後に加え、保育開始前の朝の時間帯、及び長期休暇中の平日も実施する予定である。多様な形態の預かり保育に対応可能なカリキュラム開発のためにも、研究期間を延長して実施し、汎用性の高い「預かり保育」の絵本カリキュラムの作成を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は2022年度までに得られた3,4,5歳児の縦断研究の結果を踏まえながら、再度5歳児の縦断調査を行う。また横断調査として、預かり保育先進園への視察調査を実施する。これらの結果を総合的にまとめ、預かり保育の絵本カリキュラムの作成を目指す。 (1)縦断研究では、月に1回程度、5歳児を対象に①幼稚園の正規の教育時間及び②預かり保育の観察を実施する。これまでの結果をもとに、①幼稚園の正規の教育時間については、以下4点について観察する。(a)絵本との関わり、(b)絵本環境、(c)絵本に関わる活動、(d)学び。場面は、写真撮影とともにビデオ録画し、フィールドノーツへも記録する。加えて保育者へのインタビューを行い、保育者の保育観や絵本の位置づけなどについて尋ねる。②幼稚園の預かり保育についも①同様、4点について観察する。預かり保育の部屋全体を録画できるようにビデオカメラを設置し、写真撮影、フィールドノーツへの記録も実施する。また①同様、預かり保育担当の保育者へのインタビューも実施する。①②は、研究結果を保育者、預かり保育担当者と振り返り、絵本環境の再構成を行うアクション・リサーチの手法をとる。③家庭に関しては、学年末3月に、保護者に対象児の(a)家庭での絵本との関わり、(b)絵本環境、(c)絵本に関わる活動、(d)学びについて問うアンケート調査を実施する。この調査は、全学年を対象とする。(2)横断研究として、預かり保育のカリキュラムを作成、実施している先進園を訪問調査する。 (1)(2)の結果をまとめ、預かり保育の絵本カリキュラムを作成する。また研究成果は、国内の所属学会(日本乳幼児教育学会:12月、会場:名古屋市立大学、及び日本発達心理学会:2024年3月、会場:大阪国際交流センター)で発表するとともに、作成したカリキュラムの冊子を作成するなどして、公表する。
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Causes of Carryover |
主要な理由は、人件費・謝金の未使用である。人件費として、主として観察の録画データの文字化を計上していたが、協力園のクラス編成及び預かり保育の体制変更を受け、結果の連続性が確保できなかったため、今年度は結果を大きくまとめるに止めた。次年度の結果を見ながら詳細な分析方針を決定し、両者を比較しながら分析を進めていく。次年度は、これまで収集してきたデータを質的、量的に分析しながら、月1回程度の観察の録画データの文字化をアルバイトに依頼し、両方を併せてカリキュラムを作成していく。年度末にはアンケート調査も実施し、分析する。それらをまとめ、預かり保育の絵本カリキュラムの完成を目指す。 ○使用計画 2023年度は1,490,000円の予算を使用する予定である。(a)縦断研究:1,300,000円。内訳は物品費340,000円(データ保存用HD100,000円、絵本・書籍等100,000円、インクトナー等140,000円)、人件費600,000円(データ分析など)、研究協力園への旅費(東京~奈良、12回)360,000円。(b)横断研究:130,000円。内訳は2箇所の視察調査は10,000円(横浜・東京を予定)。その他旅費として、学会及び研修会参加等のための交通費60,000円、学会年会費、参加費等60,000円。(a)(b)の成果として、カリキュラム冊子作成60,000円を計画している。
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