2020 Fiscal Year Research-status Report
乳幼児と養育者の音声相互作用における音楽的ナラティヴの発達研究
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19K02622
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Research Institution | University of the Sacred Heart |
Principal Investigator |
今川 恭子 聖心女子大学, 現代教養学部, 教授 (80389882)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志村 洋子 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (60134326)
市川 恵 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 講師(任期付) (70773307)
伊原 小百合 聖心女子大学, 現代教養学部, 特別研究員(PD) (50837490)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 音楽性 / 音楽的発達 / 音声分析 / 乳児 / ナラティヴ / 音声相互作用 / 遊び / 母子間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,乳幼児と養育者間の音声相互作用,とくに音声を中心とする遊びの中で構築されるナラティヴに焦点化し,動画解析と音声解析によってその構造及び月年齢に伴う変化の道筋を音楽的観点から明らかにすることである。ナラティヴとはMallochとTrevarthen(2009)らが生後間もなくからの発現を確認した音楽性を構成するパラメータのひとつであり,生得的音楽性の発現から文化的意味の学習への橋渡し過程を解明する鍵概念のひとつと考えられるが,他のパラメータと異なり客観的指標をもたず解釈を通して成立する概念であり,その形成過程と発達に伴う変化は未解明である。 本課題が実施した分析は,ナラティヴが時間的・身体的行為を基本とする有意味コミュニケーションを成立させる鍵であることを裏付けてきた。2020年度は既収集データから特に2か月齢,5か月齢,9か月齢,18か月齢,24か月齢に焦点化してナラティヴの可視化を進めた。具体的にはELANを用いて児と養育者の発声がつくり出す時間構造の特徴を描出し,これをPraatで可視化した音声特徴と相互参照した。この作業を通して,時間構造と音声特徴とが相俟ってナラティヴの多様性をつくり出すこと,ひいてはこれが文化的コミュニケーションの多様性につながることが明らかになってきた。母子間の直観的で自然な遊びに発現する音楽性を下支えとした二項関係に醸成されるナラティヴは,養育者が「型のある遊び」に児を誘うことで形成される萌芽的三項関係を経て,音楽的型に埋め込まれたナラティヴを児と養育者が相互に参照し合う三項関係の成立へと向かう。この過程が明らかになることで,児が文化的実践の参加者となる道筋,とくに「社会・文化的な実践として歌う」ことへの道筋のひとつが示唆された。これらの成果については,学会発表,論文執筆,このテーマに関連した著書の出版を通して公開している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はコロナ禍のため新たなデータ収集が困難であり,対面の検討を要する高度な音声解析作業についても一部延期せざるを得なかった。その一方で,ELANによるアノーテーションを通した時間構造解析とPraatによる音声特徴解析の統合によるナラティヴの可視化に進展があった。それぞれの方法で可視化された結果を相互参照しつつ統合することで,ナラティヴの様相を時間構造と音声特徴という輻輳的視点から明らかにすることができ,理論モデル形成に大きな進展が見られた。やや遅れがみられる部分がある一方で想定以上の進展を見た面もあることから,全体として当該年度の目標はおおむね達成したと言える。 加えて,学会大会や論文発表等での成果発表や各種企画を通して,音楽外の領域研究者との生産的な意見交換が活発化し,音楽のみにとどまらない文化的領域全般にわたる研究への発展可能性も示唆されたことは想定以上の成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度中に既収集データを概観してデータにタグ付けする作業を進めたことで,縦断的に分析可能なデータが既収集データの中で整理・抽出された。感染症拡大によって今後新たなデータの入手困難が続く可能性も考えられるが,この整理・抽出作業が終わっていることにより,研究計画の最終年である2021年度は理論モデルをまとめる態勢が整っている。 研究計画2年目であった2020年度は,ELANによる解析からナラティヴの時間的構造の月齢ごと・状況ごとの特徴が描出され,これをPraatの解析結果と相互参照・統合することを通しての理論形成面での進捗が著しかった。この進捗を受け,2021年度は時間構造と音声特徴両面から可視化されたナラティヴの発達的な変化の描出が,月齢と状況両面でのデータの補強を伴いながら完成できる見通しである。音質評価に関しては,Web上でのデータ共有を進めることで解析を進展させる準備が整いつつある。 加えて,先に述べたように,描出されたナラティヴ形成の道筋は音楽のみにとどまらず文化的表象全般にわたる発達において重要性をもつことが示唆されている。2021年度は研究のまとめを行なう同時に,今後の発展可能性についても検討を進める。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、国内外の学会発表がすべてキャンセルまたはオンライン開催となった。また、対面での研究打合せをすべてオンラインで実施した。そのため、旅費がほとんど発生しなかった。また、対面でのデータ解析打合せを想定した機器備品の購入も見合わせることとなった。2021年度はオンラインでの解析作業の態勢を整えるための機器備品を選定して購入、まとめの作業に入る予定である。また、対面での打ち合わせも可能な範囲で実施予定である。また学会発表に関してはオンラインであっても参加費が今後は発生する予定である。
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