2019 Fiscal Year Research-status Report
自己編集性・相互編集性を軸とする発想・構想力の概念的枠組みの構築
Project/Area Number |
19K02675
|
Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
山田 一美 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (80210441)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 発想力・構想力 / 思考力・判断力・表現力等 / 図画工作・美術科 / 自己編集性 / 相互編集性 / 循環性 / 想像力 / 創造性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,児童・生徒が発揮すべき発想・構想力の要素と枠組みを再検討・ 提案することを目的とし,2019年度は,(1)学習指導要領の指導資料・教科書等におけるその系譜(4段階区分),(2)現代社会における発想・構想論,(3)発想・構想力に関する分析/総合(統合)論,循環論等の哲学的・心理学的な捉え方を整理した。 上述(1)の第1段階では『小学校デザイン学習の手びき』指導資料(1961)から『構想段階の指導』(1976)までを,第2段階では四観点登場の『新しい学力観に立つ図画工作の学習指導の創造』(1993)までの指導資料を,第3段階では新三観点による解説編(2017)等をもとに整理した。第4段階では今後の発想・構想力の在り方を検討した。これらの課題は,『美術教育学研究第52号』(2020)に発表をし,発想・構想力の登場と格上げを示した。前述(2)では,酒井穣がデボノ(1967)の思考法を包含する「インテグレーティブ・シンキング」を,シュワブは第四次産業革命の新環境への適応・克服を想定した4種類の知性を,ワグナーは150人以上のイノベーターと親,メンター,企業経営者への質問調査から「生き残るための7つのスキル」を,ピンクは「右脳を生かした全体的な思考能力」と「新しいものを発想していく能力」を重視し 6つの「右脳主導の資質」の必要性を主張した。前述(3)では,三木清『構想力の論理』,ベルタランフィ『生命:有機体論の考察』,河本英夫『システムの思想』,ヤンツ『自己組織化する宇宙』,ルーマン『自己言及性について』,その他,内田伸子「想像のメカニズム」(『教育美術』),半田智久『構想力と想像力』,生命現象の形態を外界の知覚と円環状の循環でみるヴァイツゼッカー『ゲジュタルトクライス』らの循環理論を整理した。上述(2)(3)の成果は第58回大学美術教育学会岐阜大会にて口頭発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の課題(1)(2)(3)の整理は,概ね順調である。これらの成果は,学会誌『美術教育学研究』(査読有)及び『日本美術教育研究論集』(研究ノート),大学美術教育学会岐阜大会口頭発表,広域科学教育学会ポスター発表で発表されている。加えて特筆すべきは,研究過程で以下の新たな視点と考察を深めることができ,成果を口頭発表する予定であったが,美術科教育学会千葉大会(2020年3月)が新型コロナウイルス問題で中止となり,次年度送りとする。 その視点として,①藤島武二,青木繁らのロマン主義的な「構想画」 :日本の絵画史上,ロマン主義的表現は,この二者らが主導し,「構想画」として批評・定位されている。②ホールの図画教授観と霜田静志の想像画論 : G. Stanley Hallは," Educational Problem,"vol.2,(1911)の中で,児童の描く絵画は「彼らの思想(thought)を現す言葉」とした。この「思想(thought)」こそ「思想画」を意味した。③金原省吾『構想の研究』(1933)の「構想論」 : 東洋美術史家・金原は綴方と図画では才能あるものだけを教育対象者とすることに疑問をもち,「構想」の実験結果を報告した。④想画(生活画)と発想・構想力 : 思想画は中西良男らにより想画や生活画,物語画などと読み替えられ戦後に引き継ぐ。⑤戦後の観察画(写生画)と構想画(生活画・想像画ほか): 小池喜雄は『中等教育資料』(1960)の中で美術工芸教育の根本問題が「主観的純粋表現」と「計画的な表現」にあるとし,発想・構想力の分類方法を示した。 以上の視点を踏まえ,発想・構想力と,①絵画における観察・想像,②デザイン・工芸における製造工程,③社会変化とプロジェクト型課題解決,④コロナ時代の新しい生活様式下への適応,という四観点から,本研究の結論を導き出す構想が固まってきた。
|
Strategy for Future Research Activity |
【2020年度】次の事項を分析・考察する。 (1)「主題論」の検討(4月・5月)。 (2)発想・構想力の育成方法に関する教科書研究センターでの調査(ただし,当初4月~10月実施であったが,外部調査が可能となる6月以降とする)。 (3)小・中学生の児童・生徒の発想・構想場面の授業ビデオ分析(当初計画の10月~翌年2月の開始時期を8月以降とする)。 (1)では、「イメージ体験の座標系を形成する表現」(坂本)と「心象表現としての描画の創作過程と表現意図」(新井)の分析をする。(2)では昭和20年代の発想・構想力の示され方の特徴(「機械製図」「図面」、「木取り」「型取り」)、昭和30年代の絵画・彫刻の「美的直観力」、及びデザイン・構成、工 芸の分析的・手順的「構想」論、その他大阪万博のプロジェクト型思考法の影響、『構想段階の指導』(1976)を分析する。これにより、教科書の発想・構想力観が個人や集団で課題や問題を発見・解決するプロジェクト型へ拡張する特徴を、さらには評価の四観点が新三観点へと引き継がれ発想・構想力の要素・枠組みが変化する特徴を示す。(3)の授業ビデオ分析では、動画配信システム「21CoDOMoS」掲載の「授業ビデオ 」を対象に、自己編集性・相互編集性の具体的場面を抽出・再解釈する。
|
Causes of Carryover |
美術科教育学会口頭発表の配布資料印刷費の使用,宿泊費の使用を差し止める必要が生じ,2019年度の成果を2020年度に資料印刷し,研究者等に配布できるようにするため。 新型コロナウィルス問題で,研究推進のスケジュールを調整する必要が生じたが,8月中に配布資料の原稿を完成させる計画である。
|
Research Products
(4 results)