2019 Fiscal Year Research-status Report
郷土における直接的経験を基盤とした知識が有する三次元的構造の究明
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19K02679
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
飯島 敏文 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (80222800)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 知識構造モデル / 直接的経験 / レイヤー |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の目的は知識構造モデルの描出である。特に子どもたちが郷土において獲得する直接的経験からいかにして知識というものが成立するのか、その知識成立プロセスに見出される要素に注目した。 研究期間を通して次のように取り運んでいる。まず経験の中から諸要素を抽出し、次にそれら諸要素の二次元的な関連図をレイヤーとして描き、さらにそのレイヤーを操作することで最終的に三次元的構造を明らかにするという手続きである。このアプローチは、知識の諸要素や学習活動において生じる諸作用を記述する際に、その関連構造を含めて記述することで知識の三次元的構造を明らかにするための手がかりを得ることができるという優位性を持っている。 当該年度は、いくつかの学習単元を選び、子どもの知識を成立させていると推測される諸要素を抽出し、まず諸要素の相関関係を推定した。その上で、要素間関連の有無、関連の程度、関連の方向性等の特徴を設定し、それらを平面上に投影した仮の二次元レイヤーを描いた。このレイヤーは、個々のレイヤーを編集すること、相互に独立した複数のレイヤーを重ねることなど、その後の操作の有効性を考慮して仮設した部品である。レイヤーは、一人の子どもの学年的発達毎に、あるいは子どもたちの郷土たる生活エリア毎に、多様に想定できるはずである。 知識獲得の過程を図解する事例は多い。図が文章を補完する場合もあれば、図解自体が目的である場合もある。図解は、プロセスであったり、階層や構造であったり多様である。具体的な教材や発言等に即した図解もあれば、より一般化・普遍化された概念図や構造図もある。今年度は既存の図解とは異なる完成形を目指して、新しい観点から幾つかの要素を追記してみることによって、郷土における直接的経験と獲得される知識の関係記述を更新できるのではないかという見通しができたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
社会科学習の具体的なコンテンツや学習過程上の諸要因を反映させた諸レベルの構造図・概念図が提案されている。先行研究を参照する中で、郷土における直接的経験と獲得される知識の関係記述に関しては新提案の余地があると確信するようになった。さらに諸要素・諸要因の抽出の手続き、要素間の線分や矢印の定義づけ、普遍性抽出プロセスの時系列的な記述等の点に留意することで、より緻密で検証可能性の高い構造的記述の提案が可能であるという仮説に手ごたえを得てきたところである。 ある学習テーマにおいて、子どもの知識を構成していることが推測される諸要素を抽出し、諸要素の相互関連を推定する。まず要素間関連の有無、関連の程度、関連の方向性などの特徴を描き出し、それを二次元平面上に投影してレイヤーと位置づける。当該年度はこの段階を概ね順調に進めている。 学習の一例としてたとえば、長野盆地という対象を取りあげる。この事例における子どもたちの直接的経験、あるいは教材を媒介にして呈示された文字や画像の情報の中に抽出候補諸要素が含まれる。経験可能な対象は多様である。第一に、我が国全体における位置であったり、海からの距離であったり、標高であったり、地形や気候などの様々な物理的要素がある。第二に、古代より伝わる善光寺の縁起であったり、戦国時代の戦いの遺跡であったり、特に第二次大戦後の高度経済成長期や冬期五輪後のまちの変化という歴史的要素がある。第三に、主体によって異なる興味関心に基づいた心象風景や風土性のような心情的要素がある。 情報源から信州ユニット、あるいは長野盆地ユニットという知識のまとまりを取り出し、ユニット内の物理的環境要素や、歴史的環境要素、社会的文化的環境要素からとくに重視したい諸要素を抽出した。このことにより、2020年度は知識諸要素を抽出し、関連を検討する段階を深く探究できる見込みとなったところである。
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Strategy for Future Research Activity |
筆者が重視して取り組むのは構造図を導くプロセスである。子どもたちの具体的な経験や学習活動において用いられる教材コンテンツから、諸要素・諸要因を抽出する手続きを緻密に記述すること、要素や概念の相互間に描かれる線分の太さや矢印の方向性に厳密な定義づけを試みることなどによって、既存の図解の価値を高めることができるはずであるという見通しは揺るがない。 1 知識構成諸要素の抽出:知識構成諸要素の抽出方法については一定の確信を得ている。未だレイヤーは二次元平面であるが、ここに時系列的変化や因果関係等の新たな座標軸を加えて構成し、諸要素の三次元な構造を描き出すアプローチに進む土台となるものが確保されている。 2 学習者における知識の転移:学習主体に情報がインプットされてからアウトプットに至るまでの間に、学習者や授業者が意図的・無意図的におこなう情報補正や解釈等の操作があり、特定の操作が他の要素に及ぼす作用もある。2020年度は諸作用による変化、特に作用前後の変化に注目して知識構造の図解を進めたい。それは具体的事例に即して記述されなければ客観的な検討に耐えないので、言語や形象で明示される知識ユニットの選定と諸要素の抽出作業をおこなった上で知識構造の記述をおこなう。 3 具体的事例に即した知識の構造的記述:上記1および2のプロセスを経た上で、2021年度以降に三次元構造図の描出作業に取り組む。2020年度は三次元構造の描出に寄与することが可能な形で、各レイヤー、各要素を明示的に記述することに留意したい。 最終的な着地点は、このアプローチが知識の諸要素や学習活動における諸作用を構造的に記述することで知識の三次元的構造を明らかにするという側面と、郷土における直接的経験が有する教育的意義を明らかにするという二つの側面を含む。その着地点を見すえた研究推進を行うこととする。
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Causes of Carryover |
近畿圏に管内出張の予定があったが、感染症拡大による社会的状況に鑑みて出張を延期したため。2021年度に必要な対応をとることができる。
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Remarks |
2020年4月より研究成果公表のために運用を開始しています。
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