2021 Fiscal Year Research-status Report
郷土における直接的経験を基盤とした知識が有する三次元的構造の究明
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19K02679
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
飯島 敏文 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (80222800)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 郷土 / 経験 / 知識構造モデル / 生活圏 / 活動空間 / レイヤー |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度末に緻密かつ明解な構造モデルを呈示する見通しで、令和3年度は前年度に引き続き「郷土における直接的経験を基盤とした知識が有する三次元的構造の究明」の研究を遂行した。特に子どもたちが郷土において獲得する直接的経験から、いかにして知識が成立するのか、学習活動における知識成立のプロセスから抽出した因子を分類し、幾つかの二次元平面に配置し、それらの相互関連を描いた。次に、それら二次元平面を一定の面積を持つレイヤーとして設定し、レイヤーを重層操作することで、三次元モデルの描出に取り組んだ。 2019年度学会発表のアプローチに加え、2020年度学会発表副題「三次元空間への『知識形成ベクトル』の投影による構造描出アプローチ」等に示した知識描出手続を交えてモデル化の検討をおこない、2021年度学会発表副題「子どもの活動エリアレイヤーの配置操作による構造図描出を手がかりとして」では、知識構造図の三次元的記述方法を具体的な手続と共に示すことができた。2021年度後半は特に「直接的経験を基盤として構成される知識構造モデル描出アプローチIII-子どもの活動空間レイヤーの描出及びレイヤーの重層操作による構造モデル描出手続の検討」で示すように、限定的な子どもの生活空間の物理的領域を二次元レイヤーとして示して、それらレイヤーを蓄積した上で重層的に表現することで「擬似的三次元モデル」を呈示したところである。二次元レイヤー上の因子はそれ自身が当初位置づけられたレイヤーを超えて、他のレイヤー上の因子との関係が想定される。関連付けが比較的明解な幾つかの因子を選び、相互関連性の描出に妥当性を持たせることができた。 ①生活空間因子、②言語表現因子、③関連性期待因子、④活動励起因子、⑤ベクトル因子の5つを図解のために選び、これらの選定と描出が図解の価値を高めるという見通しを持って作業を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の着地点は、郷土における直接的経験を基盤として構成される知識構造モデルの描出である。前年度までモデル描出に係る手続きを緻密なものとして確立することに努めてきた。現実の教育的諸事象と構造図と対応関係が検証されうるよう熟考することがモデルの価値を高めるものと捉えているからである。 前年度までに描出した関連構造の中で、学習主体の生活空間にあって、二次元平面の諸因子の相互関連を支える幾つかの結節点(ノード)を選択し、それら結節点が二次元平面を超えて事象や事物の多次元的な関連構造を成立させていると仮定して、これら結節点を二次元レイヤーの重層根拠として位置づけた。幾つかのレイヤーを重層させることで、部分的ではあるが知識の三次元構造を描出するに至っている。たとえば長野盆地ユニット、あるいは東大寺ユニットという(経験や知識等の)要素のまとまりとして、子どもの学習経験全体の様相やプロセスの描出を得ることが期待される。ユニット内の物理的環境因子や、歴史的環境因子、社会的文化的環境因子から、重視すべき諸因子を選択することで、2021年度はひとまとまりの知識諸因子の関連の抽出及び検討から、構造の描出を実現することが可能となった。 加えて、教材に関わる授業者の説明、指示、発問、さらにはそれによって生じる子どもたちの学習活動に見出される諸因子・諸要因を含めて、相互間に想定される諸関係や諸相互作用の描出をおこなっている。構造明示のためには図解が効果的であり、因子間を結んで描かれる線分の太さや方向を定義することで、図解では十分に描くことの難しい「複雑で動的な関連性」の描出への道が開けた。知識獲得プロセスで諸因子間の関連に作用するものおとして想定した「ベクトル」を採用することで、諸因子が作用する「方向」や「大きさ」が明示的になり、構造記述モデルの適用可能性が広がるという手ごたえを得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度に描出した「子どもが捉えた見かけ上の対象認識」が、令和3年度には、より客観性が高く、方向と大きさを持ったベクトルを関連図に取り入れた構造記述として深化し、郷土における直接的経験と獲得される知識の関係を記述するための要件を整えつつある。 このことによって、令和3年度の課題であった①教育活動の現象として観察された事実を可視的構造図として描出すること、②描出の手法が他の教材もしくは他の学習活動に適用可能な部分を持つかどうかを検討すること、の2点については検討を終えることができた。ただし、②の点について、子どもの対象認識や思考構造の類型的な把握につながるものであるという証左を得ることが令和4年度の課題と見込まれる。 当初想定された諸課題、そこに含まれる因子が現実にどのようなカテゴリーに属すると考えればよいか、諸要素・諸要因の抽出プロセスをどのように確定したらよいか、因子間の線分や矢印の定義をどのように分類して描き分けるか、等々の点について概ね令和3年度中に課題として把握することができたため、令和4年度においてはより効果的な視覚表現の検討を経てモデルを呈示できる見込みである。 一昨年度より、ビッグデータ等を対象とするデータ分析の手法、情報学分野における情報可視化の手法なども、構造モデル描出手続に関する検討対象に含めている。多くの標本から共通点を見出すようなアプローチについても、幾つかの事例によって可能性を検証することが可能な段階に来ている。加えて、かつて盛んであった重松鷹泰・上田薫らによる授業分析の理論と実際のアプローチを再評価し、本研究で得られたモデルと、彼らの成果を照合させる試みをおこなっている。このことによって、上記②の点について、子どもの対象認識や思考構造を、授業実践記録のような明示的な対象から描出することで、検証可能性を担保することができると考えている。
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Causes of Carryover |
出張旅費、通信費、謝金など感染症拡大状況によって執行することが困難になった予算区分があった。こうした当初計画については研究計画全体の中で必要とされる図書の購入に充てるなどして、研究計画が全体として円滑に進捗するように調整を行った。差額は最低限に抑えて、令和4年度の予算執行において執行額を調整してすることが可能である。
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