2019 Fiscal Year Research-status Report
地域遺産・世界遺産の価値を伝え合い自他の文化理解を深めるESD授業モデルの開発
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19K02684
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
金野 誠志 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (50706976)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 直也 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (10203796)
永田 成文 三重大学, 教育学部, 教授 (40378279)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 顕著な普遍的価値 / ナショナルな価値 / ローカルな価値 / 世界文化遺産 / 学校教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の遠隔授業実施に備えて、現地での調査・教材収集を行い、世界遺産登録を目指している遺産として台湾の「淡水紅毛城と周辺歴史建築群」及び三重県の「紀伊山地の場と参詣道」の教材化を進めた。行政院文化部文化資産局によって潜在的な世界遺産として選定されている前者については、新北市が郷土教育用に、市内の全児童生徒に教材配布を2016年~2018年の間に行っており、教育課程の総合学習領域等での授業に活用されていた。特に注目したのが、スペインやオランダが台湾に関与した国際競争期、清朝期、日本統治期の歴史が相対化され、淡水の衰退や発展にそれぞれがどのように関与してきたか学習が展開されている点である。この教材分析及び教材を使った学習過程の分析を進め、それぞれの年度における授業の意図及び、児童生徒が授業からどのような価値を文化遺産が有すると認識するにいたっているか検討することができた。後者については、「生活の不便」、「財産権の侵害」、「生活道の公道化」という側面から、世界遺産登録に反対する地元の運動があった八鬼山問題に注目した。個人保障された普遍的権利を超えて,遺産の保護が優先されるという強制力や、他地域の人々と共有が困難な日常的な記憶や経験が背後に追いやられたことに対する違和感からの異議申し立てが反対の理由であり、該当する文化の所有権が人々によってどのような範囲にあると認識されているのかという齟齬が賛否の要因と大きく関わっていることがわかった。 文化遺産が同時に有する「顕著な普遍的価値」、「ナショナルな価値」、「ローカルな価値」の認識、及び、それらの価値をヒエラルヒーのなかに位置づけることのないようにする認識と配慮が欠かせない。これらを生かして、次年度の遠隔授業実施までに、現地調査、教材化、連携校との協力をより進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究協力小学校の内、現在、西日本(愛媛県)及び中日本(三重県)の小学校との連携・打ち合わせ、教材研究の共有は進んでいるが、東日本(神奈川県の予定)の小学校との打ち合わせ、教材研究の共有は遅れている。1つは、授業実践の協力校の通信環境が既存のTV会議システムで統一できず、WEB会議システムに変更したたためである。そのため、機材の選定・購入、連携校との打ち合わせや役割分担の検討、試験的な運用等が遅れてしまった。もう一つは、中日本(三重県)の小学校、東日本(神奈川県の予定)の小学校との連携を2月~3月に行う予定であったが、新型コロナウィルスの騒動の渦中で、後者との面談が困難になり、打ち合わせ、教材研究の成果の共有が延期されたためである。 また、研究協力校の児童が地域調査へ出かけることも3学期に検討していたが、新型コロナウィルスの関係で十分ではない。 3年次に行う予定の海外の世界遺産とその遺産を有する国の「世界遺産教育」についてであるが、台湾及びオーストラリアについては調査研究が進みつつある。台湾については、厳しい国際社会の中で,国際連合にもUNESCOにも,世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約にも加わることができないにもかかわらず、遺産の世界遺産登録を目指そうとする台湾の人々(学校・古跡博物館、古跡ガイドボランティア)の考えを探り、そのような状況の中で進められている潜在的世界遺産を取り上げた学習の内実を明らかにできた。オーストラリアについては、先住民が自分たちの先祖が残してきた遺産が世界遺産に登録されたことについて、どのように観て考えているのか検討が進みつつある。一方で、アイルランドについては、3月実施予定だった現地調査・研究が同様の理由で遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
協力小学校間で行う遠隔授業の通信環境の確認はできている。現在は、無料のグループ チャット ソフトウェアを使って試験的な運用等をおこないつつある。本格的な実施を前に、より安定した有料のWEB会議システムを6月までに選定導入し、各校で運用できるようにしたい。 連携授業の教材研究及び授業の実施については、西日本(愛媛県)の小学校では、世界遺産暫定一覧表候補の文化資産「四国八十八箇所霊場と遍路道」、中日本(三重県)の小学校では、世界文化遺産「紀伊山地の場と参詣道」、東日本の小学校では、地元の世界遺産登録を目指さない文化遺産を取り上げて進め予定である。9月までには、第1回目の遠隔交流授業を開始し、年度内には、国内の文化遺産を取り上げた交流学習を終えられるように進めていきたい。 UNESCOに加盟できないため一覧表への記載が不可能な台湾の文化遺産、移民や先住民から観た際に異なる価値が顕在化するであろうオーストラリアの文化遺産、イギリスとの関係性で「特殊的価値」を意識しがちだと推測されるアイルランドの文化遺産を念頭にした各国の「世界遺産教育」の調査、それぞれの特色や課題の分析・抽出は継続しておこなう。そして、次年度中には、3年次に実施する外国の世界文化遺産を扱う際の教材としての目処を立てる。 一方で、各協力小学校が、現在、いずれも休業中で、授業再開の目処が立っていない。通常の状態で日常の授業が実施可能となる時期が、現状では不明であるまた、研究代表者や研究協力者が海外での調査・研究を再開できる時期も不明である。そのため、今後の計画の時期的な変更の必要も出てくる可能性もある。そのため、最終的な授業モデルの作成は目指すにしても、今後の進捗は、それぞれの時期を後ろにずらしていくことも想定しておく必要がある。
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Causes of Carryover |
当初、遠隔授業を既存のTV会議システムを利用する予定であったが協力学校間での通信環境が合わず、WEB会議システムを導入することとなった。そのため、この件に関する今年度の購入額が低下した。一方で、次年度、インターネット環境を新たに整える必要のある学校も出てきたためため、次年度以降にかかる費用を残しておく必要が出てきた。 新型コロナウィルス騒動のため、協力校への訪問や現地調査等ができない状況となったため、その分の旅費が残った。 次年度運用予定のWEB会議システムの導入に必要な機材・通信費に残額をあてる。また、当該年度実施できなかった協力校への訪問や現地調査等を柔軟に考え計画的に旅費を執行する。
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Research Products
(9 results)