2019 Fiscal Year Research-status Report
Clinical Educational Intervention for Children with Intellectual Disability in Learning Basic Mathematics -Working with the Database http://sup-math123right.org/-
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19K02711
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
小田切 忠人 琉球大学, 教育学部, 名誉教授 (00112441)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 数認識 / 数概念 / 発達観の転換と学習 / 数の概念的な理解 / 概念画(マンガ絵) / 十進位取り記数法 / 知的障がい / スペシャル・ニーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
先行研究で得た数認識の概念化と呼ぶ数の学習過程(数認識は既存であり、概念化はその再学習)は、以下の(1)~(4)である。 十進法を学習する過程と位取りの原理を学習する過程を区別することとし、まず、(1)就学前段階の数認識から「十」以上の数の導入までの学習では、①~⑦。すなわち、① 概念画を少しずつ描けるようになる過程。② 識別できる一個の物・二個の物・三個の物に対して、「いち」・「に」・「さん」という言葉を獲得する過程。③ 識別できる一・二・三の認識で、四個の物・五個の物を同定する過程。④ 四個の物・五個の物に対して「四」・「五」という言葉(数詞)を獲得する過程。⑤「五の缶詰」の導入(五といくつ)と六~九個の物を同定する過程。および、「六」から「九」までの数詞を獲得する過程。⑥「十」の導入(「六」~「九」と「十」の識別)。⑦「十」以上の数を学習する過程(十といくつ)。次に、(2)以上の学習の達成状況(手続き的でなく概念的な理解の状況)を踏まえて、十進法を学習する過程(「十」以上の数の同定と各数詞の獲得)。(3)位取り記数法を学習する過程(「十」以上の数字の獲得/繰り返しの学習で漢字を覚えるように数字を学習した子どもにとっては、再学習)。(4)以上の数の概念的な学習が進んだところで、数の概念操作をお金などの課題に適用する過程。 本年度は、(2)の学習過程を経た被験者に対して、(3)および(4)の学習の有り様と進展を観察した。すなわち、十進法概念の獲得により、四桁の数までの同定はでき、その学習がお金の計算(金額の同定)に転移することを確認し、その記録を残した。また、新たな児童生徒を被験者として教育介入を開始した。そして、まだ十分でない(1)の①~⑥について教材を新たに開発し、その学習の過程を観察した。この結果、⑦への必要な数認識の発達を、教材で語ることができるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行する研究で、算数(特に、数の学習)にスペシャル・ニーズ(学習困難)のある児童・生徒も、「現実の世界→モデルの世界→シェーマの世界→数学の世界」という学習の階梯によって、数概念を獲得することができることを実証的に(教育介入により)明らかにした。その「現実の世界→モデルの世界」という学習は、子どもが既に持っている認識を絵で表現することで教育介入の対象とする過程である。知的障がいのある子どもの場合、他の子どもと同様に生活年齢に沿ってそれなりに成長するが、物の認識を絵で表現するという3歳くらい~5歳くらいの発達特性に相当する課題を積み残したまま、数の学習を就学により始めることになっている。その結果、数唱を繰り返しの学習で覚えることができても、小学一年生の学習達成が、進級しても未達成のままとなっている。 物の認識を絵で表現するという発達過程上の課題に対する学習は、いわゆる絵の描き方(手続き)を繰り返し練習することでは済まない。手続きの訓練で済むのであれば、繰り返しの訓練が可能であり、その成果を短時間に確認できる。しかし、この課題は、形式的に覚えて、それを吐き出すということではない。そう思える、そう見える、そう描けるという認識の変容が必要である。これは、多くの子どもたちにおいては、日常の生活や遊びの中で起こる認識の変容(発達)である。このことは、意図的な教育介入によって、その学習達成を短期間に期待することはでないことを意味する。短期間のうちに変容を見ることが難しい認識発達を、どういう教育介入(教材)で促し観察するかが問題であった。 本年度の研究では、先行研究で着手した教材開発を、物の認識を描く課題を「意味の分解合成による形の分解合成」と捉えることで進めた。その結果、「概念画を少しずつ描けるようになる学習の過程」の大枠を教材で語れるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進に向けて、次年度は、二点に焦点を当てて取り組む。 (1)数の学習に先行する概念画教材による「意味の分解合成による形の分解合成」の必要性・有効性を、教育介入により実証的に検証するとともに、概念画から数の学習への移行と,その学習の進展(「現実の世界→モデルの世界→シェーマの世界→数学の世界」)・進行(数一、二、三の認識から、 四、五、さらには、九までの数へ)を確認・検証する。 (2)十進法の理解と位取り記数法の理解は区別されるべものであることは、十進法が理解できるようになった知的障がいのある被験者において、本年度までの研究で実証済みであるので(例えば、数詞「二百三」は意味が分かり概念操作の対象になる - 例えば、お金「二百三円」が同定できる ー が、数字「2003」と混同してしまう)、位取り記数法の理解が、どのような学習の過程で十分なものになるのかを、言い換えれば、新たな教材を開発を含めて、どのような教材の組み合わせが位取り記数法の理解のために必要なのかを確認・検証する。 以上は、小学一年生に止まらない、小学二年生以上の学習で求められる数認識の発達を語るものであり、その実際を示すことになる。 ちなみに、これらの教育介入教材は、本研究で開発してきた教材および実証するデータとともに、暫時、WEB上に構築したシステムで教育研究関係者に公開していく。
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Causes of Carryover |
全体として予定通りの予算執行であったと考えている(約94%)。被験者(児童・生徒)への教育介入(対面による学習達成診断)のための県外出張で、早割を利用したり、別用と重ねたりして、旅費を切り詰めた(どれだけ切り詰められるかは、航空券を予約し購入して確定されるもの)。また、本研究での作成・活用するWEBデータベース・システムや教材開発のためのソフトのバージョンアップや新規購入を最低限度にした。 次年度は、遠隔地の被験児童生徒に対する教育介入のための出張を少しでも可能な限り増やし、より丁寧な学習達成診断をしたいと考えている。それは、研究が予定通り進めば、よりクリティカルな学習達成状況が各被験者において観察されると期待できるからである。また、教材開発も引き続き進める。これらの経費に充てる。
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