2021 Fiscal Year Research-status Report
生態学的自然観を形成するための幼児教育実践の実態と課題に関する調査研究
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19K02717
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Research Institution | Osaka Ohtani University |
Principal Investigator |
井上 美智子 大阪大谷大学, 教育学部, 教授 (80269919)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 環境教育 / 保育 / 田んぼビオトープ |
Outline of Annual Research Achievements |
「幼児期の環境教育普及に資する理論構築とそれに基づく具体的実践の提案」という究極目標下で、保育実践において伝統的第一次産業をどのように活用すれば乳幼児期からの「生態学的自然観」形成に効果的かという問いの答えを探求するために、環境教育の実践研究を継続する研究協力園に田んぼビオトープを造成し、稲作を保育の日常の中に取り入れ、保育者が「生態学的自然観」を意識した実践を行うことで稲作体験を通して「生態学的自然観」の形成ができるという仮説を検証する。同時に、保育現場における稲作やその他の伝統的第一次産業の活用実態や実践上の課題等を質問紙調査によって明らかにし、現場の実態をふまえた上で「生態学的自然観」の育ちを目的とした伝統的第一次産業の活用のあり方を検討する。 2021年度は、前年度に引き続き田んぼ保育に関わる保育者の自然観察力を高めるために自然観察の専門家による少人数研修を企画し、計4回の勉強会を実施した。また、2019年度に造成した田んぼで2回目の稲作を新5歳児が実践。昨年度の5歳児から引き継いだ種もみを使って種まきして苗を育てた。担任は周りの環境との関係を意識することを目標に、ビオトープのエコマップ等新たな取り組みもなされた。2021年度は日ごろの田んぼの管理を縦割り保育のグループで行い、脱穀の見学を他学年もするなど、下の学年のかかわりも増やし、子どもの関心が高まるよう取り組んだ。 さらに、2020年度実施予定で新型コロナウィルスまん延のために延期していた質問紙調査を実施した。年間の活動内容についての質問であるため、年度末での実施としたが、結果として第6派の感染拡大と時期が一致し、休園等保育現場が翻弄された時期でもあったため、回収率が伸びず、22%にとどまった。この2年間の活動はどの保育現場も通常とは異なる状況であったため、調査による現状把握という点では課題が残った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
田んぼビオトープでの稲作は順調に実践されている。2021年度も2.1キロの玄米を収穫することができ、わら細工も実践できた。しかし、保育者研修については年間6回の勉強会を予定していたが、感染症による救援や外部者の立ち入り制限などにより、結果として年間4回しか実施することができなかった。また、従来からの人手不足にコロナ対応が加わったことから保育現場の職員の疲弊感が著しく、実践研究の実施が職員の労働環境を悪化させているとの園長判断があり、長らく実践研究を継続してきた研究協力園であったが、従来通りの実践研究の継続が不可能となった。これは当初の研究計画を立案した時には予想もできないことであった。類似のことは他園でもあり、保育の質の向上を求める一方で待機児童対策として保育者の労働環境の改善がないまま施設数のみを増加させてきた政策の問題点が表面化してきたといえるだろう。今までの蓄積が喪失することは残念であるが、通常保育の維持にさえ苦慮されている現場に研究の継続を求めることは不可能であった。一方、本研究課題に関連して、別の協力園での過去の実践に関して、文献調査を行い、かつ、その協力園での卒園児への質問紙調査を新たに実施した。幼児期の経験を中学生となった卒園児が覚えており、また、自身に影響したと回答していた。今後の課題としてこうした追跡調査の必要性が明らかになった。 質問紙調査については、2020年度に実施予定であったものを実施したが、報告の通り、回収率は芳しくなく、また、回答内容についても、この2年のコロナ禍の影響は免れ得ないと考えている。 以上のような状況ではあるが、研究計画に挙げた内容については、2021年度については問題なく、ほぼ予定通り進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
4年間継続予定の研究協力園での実践研究が不可能となったため、急遽、別の実践協力園を探し、承諾を得ている。元々環境教育を実践していた園ではないが、自然とかかわる子ども主体の保育を重視しようと保育の改善に取り組んでいる園であり、いわばゼロからのスタートであるが、2022年度1年間の田んぼ保育の実践と自然体験の専門家による園内研修を継続することでどのように自然観が変容していくのかを見ていくことにする。また、子どもの育ちについても環境教育の観点から評価できる生態学的自然観の萌芽が見られるのかを確認し、今までの研究成果と比較する。 質問紙調査については、すでに回収が終わっている回答用紙の整理、入力、分析を実施する。この2年間のコロナ禍の影響のある中でどのような結果が出るのかは分析を待たねばならないが、過去に3回実施した調査結果と比較し、幼児期の環境教育から見ての進展があるのか、また、稲作の実践率、その中での各園の実践のねらい等の分析を進める。 本課題については2022年度が最終年度であるが、幼児期の環境教育研究においては保育者の教育が重要であるという指摘が数多くなされるようになってきており、本課題でも保育者の意図的な環境設定・活動の選択・援助が重要であることが明らかになっている。今後は、保育者が研修と環境教育を意図した実践によってどのように変容していくのかを解明していく予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度は、田んぼビオトープに関する部分はほぼ計画通りに進んだ。また、2020年度実施予定であった質問紙調査も滞りなく実施できた。専門家による保育者研修の実施回数が減少したため、わずかな残額が生じている。 2022年度は新たな協力園での稲作活動の実施をすることに計画変更になったため、用土や用具等、新たな購入が必要となっている。また、当初予定していた学会出張も現在のところ予定が立たないこともあり、2021年度の残額と旅費の予算額と合わせて新たな活動を実施する経費として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)