2019 Fiscal Year Research-status Report
3.11後のESD―いのちと暮らしの安全・安心を探究する家庭科の学びの構築―
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19K02736
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
大矢 英世 宮崎大学, 教育学部, 准教授 (50827441)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ESD / 家庭科 / 原発事故 / 人権 / SDGs / ESD授業実践 / 安全・安心 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、東日本大震災原発事故後の生活課題に焦点をあてて授業実践を検討し、ESDの視点からいのちと暮らしの安全・安心を探究する家庭科の授業構想、教材開発をめざす。具体的には、初年度では、先行研究の文献調査を行った。東日本大震災の被災生活へリアルに踏み込んだ授業実践は、管見の限り家庭科では公開された実践としては見当たらなかった。しかし授業実践の多くは、教師と生徒の教室空間および教育実践の中に終始するものであり、一般公開されていないだけとも推察する。一方、社会科では、被災地の自主避難をめぐる家族の葛藤に焦点をあてた実践や原発立地計画を設定し東京の高校生に選挙への投票という形で思考を導く授業など実践に広がりが見られた。これらについては、関係性の教育学会の学会誌に投稿した。 また、家庭科教育におけるESDについて、家庭科教育研究者連盟発行の家教連家庭科研究No.360の特集「家庭科教育と持続可能な社会」の論説部分「家庭科教育と持続可能な社会―きれいごとではすまされない子どもの現状に引き寄せて―」を寄稿した。さらに、家庭科教育研究者連盟の夏季研究集会における高校全体会で、「家庭科教育と持続可能な社会」について口頭発表を行った。 小中高等学校の教員免許更新講習で担当した「家庭科の現状と課題」の受講生に「家庭科とESD」について講習前後のアンケート調査を実施した。講義では、家庭科ESDシートを活用した授業構想を課題として指導案作成を実施している。この免許更新講習での授業構想課題は継続実施して、データ分析を進めていく過程にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、先行実践の文献調査を中心に進めた。公開されている家庭科の授業実践においては、原発災害による生活課題を取り上げた授業実践は少なく、東日本大震災原発事故後の生活の安全・安心に深く踏み込んだ実践に出合うことはできなかった。一方で、社会科教育分野では、原発事故による生活課題についても生徒の思考を揺さぶる先進的な取り組みが見られ、家庭科の学習課題ともリンクした内容であった。また、2019年の高等学校学習指導要領解説家庭科編では、持続可能な社会の構築との関連が示され、SDGsとのつながりも強調された。これを受けて、関係性の教育学会の学会誌「Journal of Engaged Pedagogy」 Vol.19-1に論文『人権としての生活の安全保障とESD-3.11から家庭科教育は何を課題とすべきかー』を投稿し、査読修正を経て、掲載決定の通知を受けた。 また、新学習指導要領の動向を受けて、家庭科教育研究者連盟発行の家教連家庭科研究NO.350に「家庭科教育と持続可能な社会」の特集論説を寄稿した。また、家庭科教育研究者連盟の夏季集会において、高校全大会で「家庭科教育と持続可能な社会」の口頭発表をした。担当する教員免許更新講習においては、ESD教育の実践状況等のアンケート調査を実施し、ESDの視点を取り入れた家庭科の授業構想に取り組み、本研究の考察に反映させていくために継続実施している過程にある。
」
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Strategy for Future Research Activity |
現在、世界中に新型コロナウイルス感染症の猛威が振るい、学校現場は混乱している。新たに発生したこのコロナ感染問題による現代社会のありようは、3.11後の人権としての生活の安全保障とESDの問題ともつながっていると考えられる。この地球上の誰もの問題となったいのちと暮らしの安全保障の問題を家庭科教育の中にどのように位置づけていくのか検討していきたい。 具体的には、学校現場の先生方とつながり、授業実践検討を進めていきたい。コロナ対応で、遠隔会議が浸透し、遠距離の研究会に参加できるようになったことで、より研究の質を高められると考える。世界の潮流となったSDGsを、家庭科のESD授業実践にどのように取り入れ、どのように活かしていくのか、具体的に検討していきたい。家庭内の行動規範に落とし込むのではなく、社会で起きている問題や世界で共有するようになってきている新しい価値観に目を向け、生徒たちの将来の生活を生徒たちの視点で考える授業開発に着手する。 新型コロナウイルス感染症への対応の影響で免許更新講習は、実施も危ぶまれている状況にあるため、先の見通しが立たない状況である。実施が見送られた場合はこれまでのデータをもとに分析を進めていきたいと考える。 コロナ対応により、新たに生まれたライフスタイルは、人と自然の関係性の見直しやエネルギー、食料、生活用品の生産消費システムの見直しにつながっている。この現状を反映させ、いのちと暮らしの安全・安心をめぐる課題に迫る家庭科の授業実践検討を深めていきたい。
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Causes of Carryover |
昨年度、予定していたより他県で実施された研究会へ参加できなかったため、その交通費が余った。また、購入予定であったパソコンも購入を見送った。今年度は、遠隔による研究会参加も予定しているため、映像機能の付いたノートパソコンおよび周辺機器を揃えたい。
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