2020 Fiscal Year Research-status Report
説明的文章の読解指導における状況モデル構築の手がかりの実態と教材の難易度の関係
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19K02763
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
青山 之典 福岡教育大学, 大学院教育学研究科, 教授 (00707945)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 説明的文章 / 難易度 / 結束性 / 階層構造 / 入れ子構造 / ものの見方の多様化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,高等学校国語総合教科書に焦点をあて,教材文の難易度を決める要因について検討した。その結果,説明的文章の構造は基本的な結束性によって説明できること,高等学校国語総合の説明的文章は小・中学校と比べて,特に構造が複雑化しているとはいえないこと,小・中・高等学校へと学年が上がるにつれてものの見方が多様化し,難易度を決める要因になること,階層構造,入れ子構造がそれぞれ特定の結束性と関係することなどが示唆された。 昨年度の研究においては中学校の国語科教科書所収の説明的文章について検討したが,読者の状況モデル構築に対して,筆者のものの見方が影響を与えることが示唆された。これは小学校の場合とは異なる傾向であった。そこで,当初の計画では扱う予定になかった高等学校国語総合教科書所収の説明的文章についても検討することで,説明的文章に内在する難易度を決める要因について追究することにした。 その結果,冒頭に述べたことを明らかにすることができた。これまでの一連の研究を通じて,説明的文章の構造的な複雑さだけが難易度を決める要因ではなく、様々な構造によって顕在化する筆者のものの見方の多様さも,難易度を決める要因になっていることが明らかになった。説明的文章に内在する構造的な複雑さは,多様なものの見方によって読者の認識を深化・拡充させようとする筆者の工夫である。本年度の研究成果は,筆者のそのような工夫が読者にどのような影響を与えているかを今後検討するための基盤になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初,予想していなかった成果を挙げることができ,研究は概ね順調に進展していると判断した。交付申請書には記載していなかった研究を進めることにはなったが,研究を深化・拡充する結果になったと考える。 特に,説明的文章の構造を支える基本的な結束性については,蓋然性を高めることができたし,階層構造や入れ子構造に現れる結束性の種類を概ね特定することができた。さらに,小学校から高等学校に進むにつれて,説明的文章の構造がどのように複雑化していくのかを明らかにすることができ,構造の複雑さのみが難易度を決める要因になっているわけではないことを明らかにすることができた。単に構造が複雑になっていくことだけに焦点をあてるのではなく,ものの見方の多様さが難易度を決める要因になっていることを明らかにすることができた。また,構造の複雑さは,ものの見方を多様化させるための装置として機能していることも明らかにすることができた。 これら様々な研究成果を導き出すことができたため,概ね順調に進展していると判断してよいと考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は読者の認知構造に焦点をあてた研究へと進むことで,説明的文章に内在する構造的な複雑さやものの見方の多様さが,どのような影響を与えているかを明らかにすることができると考える。 具体的には,認知心理学の知見から,自己効力感を手がかりにして考察を進めていこうと考えている。特定の課題を設定し,難易度の異なる複数の説明的文章を提示して,その課題を解決できると思うかどうかについて調査することで,説明的文章に内在する難易度を決める要因が,読者の自己効力感に与える影響を明らかにすることができると考える。ここでの自己効力感とは,説明的文章を解釈するために適切な行動を遂行できるという読者自身の確信の程度であり,まさに読者が特定の説明的文章を難しいと感じているかの指標となる。 小・中・高等学校に調査協力を依頼し,収集したデータの分析・考察を通して,研究を進めていく予定である。 また,説明的文章の構造がどのようなものの見方を顕在化させるのかについて,これまでに検討していない説明的文章の分析を通して導き出し,蓋然性を高めていきたい。それから,説明的文章に内在する論理構造についての考察をさらに進めて,それらの構造がどのような論証過程を形成しているかについても,検討を進めたい。
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Causes of Carryover |
当初計画していた研究大会や調査などが,コロナウイルス感染拡大によって変更を余儀なくされたため,リモートでの調査,リモート学会への参加に伴う機材の購入や調査研究のための文献購入などにあてたが,結果的に次年度使用が生じることになった。また,次年度にコロナウイルス感染症が収束することで可能になれば,今年度行うことのできなかった調査のための出張や自己効力感に関する調査のための小・中・高等学校への出張も計画することになる。 そこで,次年度は可能であれば国際学会への参加や他県への調査研究を計画するとともに,新たに必要となる機材や調査研究のための文献などの購入を計画したい。また,調査結果の分析等に関わる予算についても計画したい。
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Research Products
(1 results)