2020 Fiscal Year Research-status Report
音楽聴取時における演奏者-聴取者間の相互作用の解析:拍への同期度による検討
Project/Area Number |
19K02769
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Research Institution | Aichi Toho University |
Principal Investigator |
水野 伸子 愛知東邦大学, 教育学部, 教授 (30440556)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
津崎 実 京都市立芸術大学, 音楽学部, 教授 (60155356)
福本 徹 国立教育政策研究所, 生涯学習政策研究部, 総括研究官 (70413903)
安藤 久夫 岐阜女子大学, 公私立大学の部局等, 教授 (90387457)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 音楽聴取 / 相互作用 / 拍 / 手拍子 / 音響信号処理 / 演奏者 / 聴取者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,音楽聴取時における演奏者-聴取者間の相互作用を演奏の拍時点と聴取者の手拍子の同期度から調べた。令和2年度は演奏と手拍子の拍時点を音響信号処理から推定し,その結果を演奏者-聴取者間に聴覚情報のチャネルが双方向に開いている実験群と演奏配信の一方向のみの統制群とで比較検討した。人が音を知覚するのは音が立ち上がった時であると考えられ,デジタル収録した音波系の包絡線を抽出しローパスフィルター出力後の波形を時間微分して傾きが最大になる時点の時刻を拍時点と推定した。実験曲は計3曲であり4試行を異なる集団で実施した。解析は1集団の特性が強く出ないよう同一曲の試行を合計して全体的な傾向を調べた。演奏と手拍子の拍時点による正規化誤差の平均平方二乗誤差率(RMSPE)は3曲とも実験群が統制群より小さく,実験群は統制群より演奏と手拍子の同期度が高いことが示された。正規化誤差の二乗平方根をとり統計処理をして平均値の比較をした。曲Aと曲BにおいてはLevene検定を用いて等分散性の検定をした結果,1%水準の有意差があり不等分散が認められ,Welch検定の結果,平均値に1%水準の有意差があった。実験群は統制群より演奏と手拍子の同期度が高いことが示された。しかし,故意に手拍子に合わせて演奏している可能性も考えられ,演奏と手拍子の拍時点間隔を相互相関解析して両者の関係を調べた。その結果,実験群においてLag値が「-2, 1, 2」で正の相関が見られ,聴取者と演奏者は過去2拍程度までの情報を互いに利用し合いながら相互に同調する関係にあることが示唆された。演奏者-聴取者間における双方向性の情報伝達は演奏者-聴取者間の拍時点の同時性を高め,相互に同調する関係を作ることが示唆された。本実験結果はこれまで自明であると仮定され未解明であった「演奏者―聴取者間の相互作用」をデータから示したことに意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の計画は,実験結果の解析であった。まず演奏と手拍子の拍時点推定をデジタル収録した音波系を基にMATLAB R2020bを用いて信号処理して求めた。ローパスフィルターにかけるカットオフ周波数を検討し,ローパスフィルター出力波の時間微分処理から局所的な音量急増時を算出することにより,最適な拍時点を抽出することができた。この拍時点を基に演奏と手拍子の正規化誤差を実験群と統制群で比較し,拍時点間隔を相互相関解析して演奏と手拍子の関係性を調べることができた。以上のような解析の進捗状況から研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでの実験結果の解析をさらに進め考察を加える。演奏と手拍子の拍時点間隔における相互相関解析は統制群においても実施し実験群との比較から検討する。これにより演奏配信のみの場合の演奏者-聴取者間の聴取者の反応が明らかになる。また、曲Cで曲Aや曲Bと異なる結果が出た要因については,先行文献から得られた知見を精査し手拍子といういわば合奏の側面からも含め広く検討し考察する。以上のことを踏まえて演奏者―聴取者間の相互作用を同時性と相互同調の観点から総合考察し,その研究成果を論文としてまとめるとともに学会で報告する。
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Causes of Carryover |
音響信号処理のために必要なツールボックスをMATLABに追加する予定である。データ解析の検討会議も研究分担者や研究協力者と頻繁に開催する予定である。ZOOM開催の場合は資料の郵送代、対面で実施の場合は出張旅費に使用する。また追加実験が必要になった場合は実験費用として実験参加者への謝金,新型コロナウイルス感染予防のため対策費も必要になる。学会等での研究成果を発表するための出張旅費、論文投稿費にも使用する。また、年間通じて文献や資料収集の旅費・経費にも使用する予定である。
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Research Products
(3 results)