2019 Fiscal Year Research-status Report
美術鑑賞学習におけるデジタルツールを活用した思考の可視化方略の効果と課題
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19K02803
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石崎 和宏 筑波大学, 芸術系, 教授 (80250869)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 美術教育 / 美術鑑賞 / 思考の可視化 / 学習方略 / デジタルツール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、美術鑑賞においてデジタルツールを活用して思考の可視化を促す学習方略を開発し、その効果と課題を実証的に考察するものである。特に美術鑑賞プロセスにおいて、鑑賞者が各自の問いや感想、解釈を相互に共有するためのグループワークの在り方や、鑑賞対象の作品に関する作者のメッセージやナラティブを鑑賞者が思考しそれを効果的に視覚化する上でのデジタルツールを活用した映像表現活動の可能性など、作品の意味解釈と鑑賞者の深い思考を促す上での思考の可視化方略の具体化と検証を試みている。 本年度は研究の第一段階として、美術鑑賞において思考を可視化するための方略の理論的フレームについての基礎的検討を進めた。まず、論理的思考や批判的思考、創造的思考での可視化など、さまざまな思考プロセスにおける可視化を支援する方略に関わる文献調査を進め、思考プロセスにおける基礎的な可視化方略のプロタイプを措定し、美術鑑賞プロセスへの活用の可能性と課題について検討した。特に美術批評学習における記述・分析・解釈・判断のプロセス(Feldman,1983)において、Making Thinking Visible (Parkins,2003; Ritchhart et al,2011)の知見に基づくさまざまな支援ツールの応用やグループワークの可能性について発達的視点をふまえて検討した。また、Efland(2002)の認知的柔軟性の知見を敷衍して思考の質的深化のためのメタ認知や省察の視点を検討し、美術鑑賞での自己省察を促進するためのデジタルツール活用の可能性と、デジタルツールによる映像表現での思考の可視化支援の教材を試作した。これらの研究成果の一部は、「美術鑑賞教育ネットワークとちぎ」での招待講演において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画は、美術鑑賞において思考を可視化する方略のための理論的フレームについて基礎的検討を行うことであり、さまざまなタイプの思考での可視化を支援する方略に関わる文献調査と分析、ならびに美術鑑賞プロセスへの活用の可能性についての検討をおおむね計画的に遂行することができた。また、デジタルツールによる映像表現での思考の可視化支援教材の試作では、これまでに蓄積してきた教育研究活動での予備的実践を活用して試作を進められている。それらの実践的な教材開発の一部については、国内での招待講演や教員免許更新講習(「図画工作・美術教育を複眼的に考える」)などにおいて、美術館教育普及関係者や教員などを対象に積極的に公開し、教育実践現場での活用に貢献している。なお、米国から招聘予定であった研究者との研究協議とフォーラムの開催は、日程調整がつかなかっために次年度に変更となったが、本年度の研究遂行に支障がでるものではなく、次年度の実施で対応する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は研究の第二段階として、美術鑑賞での思考の可視化としての映像表現に加えて、五感を通した実体験や複製作品による疑似体験の創出、そして自由な連想や解釈を促す対話をベースとしたファシリテーションによる相乗効果について検討する。また、美術鑑賞において解釈した内容をコラージュ表現やショートビデオ作成によって可視化する活動が、鑑賞者が思考を深めていく方略としてどの程度寄与するのかについて質的な分析を進める。鑑賞者が作成するショートビデオでは、Spark Video等の簡易なビデオ編集ソフトを搭載したタブレットを活用し、絵コンテ作成、映像撮影、編集などの一連のプロセスをグループワークによって行い、それらの協働的な活動による学習効果にも注目して分析する。具体的には鑑賞時のワークシート記述や鑑賞エッセイのテキストデータから学習者の作品解釈のカテゴリー分析を行い、思考の可視化方略による鑑賞の質的変容過程についての仮説モデルの生成を試みる。また、米国から研究者を招聘し、研究フォーラムを開催する。
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Causes of Carryover |
令和元年度に繰越額が生じたのは、米国から招聘予定の研究者との日程調整がつかなかったために年度内に来日することができず、それによって当初計上していた招聘研究者の旅費と謝金、翻訳の費用の支出がなくなったためである。 令和2年度においても継続して招聘予定研究者との日程調整を行い、米国から招聘する予定であり、その旅費と謝金、翻訳の費用に使用する計画である。
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Research Products
(1 results)