2020 Fiscal Year Research-status Report
フランスの教員養成における「音楽史」-視覚芸術を活用した授業デザインと指導法
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19K02830
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
吉澤 恭子 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (40594354)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 音楽史 / 教員養成 / 視覚芸術 / 教員採用試験 / フランス |
Outline of Annual Research Achievements |
フランスの学校教育における「芸術史」の導入が、児童生徒の音楽の学び方に多様性をもたらしている。音楽学習を支える教員に求められているのは、人間が築いてきた歴史における音楽と芸術との関わりを問う思考力だけではなく、音楽科の技能・知識を相互に関連付け、教科独自の見方・考え方を働かせながら音楽作品を深く理解する力である。本研究の目的は、フランスの教員養成では「音楽史」がどのように教えられているのか、また芸術史との関連から視覚芸術が音楽史の学びにおいてどのように活用されているのかを明らかにすることである。本年度は以下2項目に焦点を絞り、調査・研究を進めた。 (1)2019年度、パリ・アカデミーのINSPEで視察した「芸術実践と芸術史」や「音楽史」に関連する授業で使用されている教材の調査。 (2)フランスの中等音楽教員採用試験(CAPES, section d'Education musicale et chant choral)の筆記試験科目「音楽と芸術の教養」の過去問題の考察。 フランスのいくつかの出版社が児童生徒の音楽や音楽史の学びに繋がる絵本や教材をシリーズで刊行していること、そうした書物内には芸術作品の図版が掲載されていることを確認し、新たな研究の視点と方向性が広がった。研究成果は日本教材学会第32回研究発表大会(紙上研究発表大会)で発表し、その後内容を整備・拡大し、論文を執筆した。2011年から2020年まで実施された中等音楽教員採用試験「音楽と芸術の教養」の過去問題を考察の対象とし、10年間の試験の枠組みと出題方法について整理した。2015年以降の試験では音楽聴取曲と音楽教育や芸術全般に関わる執筆物との関連性が、また芸術作品の図版から想起される音楽史と芸術史をめぐる知識・教養が受験者に問われていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の深刻な状況から現地調査を中断せざるを得なかったため、本年度は、パリ・アカデミーのINSPEでの授業・演習等の視察調査で得られた情報及び知見をもとに、可能な範囲で教材及びデータ等の収集に努めることができた。これまで入手したデータから、従来の音楽史の論述試験に相当する中等音楽教員採用試験「音楽と芸術の教養」に着目した。考察の結果、試験課題には芸術史と芸術作品の知識・教養を問う内容が確認できた。パリ・アカデミーのINSPEのカリキュラムに組まれている中等音楽教員養成科目の多くは、フランスの中等音楽教員採用試験対策を担っている。フランスの教員養成における音楽史の指導方針を窺い知る上で、教員採用試験過去問題の考察はその大きな手がかりを与えてくれた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、2021年度も現地調査を遂行できないことが予想されるため、当初の計画を一部変更し、研究を進めていく。 1.2019年度に実現できたパリ15区の小学1年生を対象とした音楽鑑賞活動における美術館・芸術作品の活用に関する実践調査をもとに、研究成果を整理する。 2.フランスの小中学校における音楽科教育の方針、中でも芸術史や芸術作品の学びを繋ぐ音楽科の授業計画に関する考察を進める。 3.これまで収集した音楽絵本や音楽史教材を概観し、音楽史と芸術史の学びを繋ぐ関連資料の調査を進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の深刻な状況で、国内学会での研究発表が紙面発表形式に変更されたことから出張経費が抑えられた点、フランスでの現地調査が実施できず渡航諸経費が計上されなかったため、次年度使用額が生じた。2021年度の使用計画として、調査の協力を依頼している学校教育機関や教員養成機関のスタッフとコンタクトをとり、現地調査の再開が可能となった場合には渡航諸経費に充てる予定である。
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