2019 Fiscal Year Research-status Report
中核概念と対話スキルによる社会科ワークショップ型授業の多学年カリキュラム開発
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19K02831
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
江間 史明 山形大学, 大学院教育実践研究科, 教授 (20232978)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 教育学 / 社会科教育 / ワークショップ型授業 / 中核概念 / 対話スキル / カリキュラム / 多学年 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究実績は、下記の単元を開発したことである。 小学校では、3年社会で単元「スーパーマーケットの工夫を経済的に考える」を開発した。消費者の選択と販売者の工夫を、稀少性という経済学の中核概念をもとに学習者に考えさせることができた。 中学校では、「探究」の対話スキルについて、中1歴史で「君も歴史学者シリーズ」を開発した。土偶作成の目的や邪馬台国所在地を主題とするものである。考古学の内容は、正答が一つに定まらないものを含む。未解決の理論的問題を扱う「探究」の対話に適合的である。子どもの表現から、過去の出来事との時間的隔たりのもとで、縄文人の目からの意味を生成したり、逆に「わからない」理由を明確にしたり、その子なりの歴史への迫り方を見出すことができた。 「説得」の対話スキルについては、中1地理の南アフリカで、「大統領を説得せよ!ブラジル ベロモンテダム建設問題」の単元を開発した。ダム建設賛成派(電力会社等)と反対派(先住民や地球環境NGO)が各々の意見を論証し、大統領が判定するという学習環境をデザインした。大統領役の生徒は、持続可能性や公正、開発などの中核概念を基準として用いて判定していた。 「熟考」の対話スキルについては、中3歴史の昭和戦前期について、日本社会の様子を特徴的に表す写真を2枚選ぼう、という単元を開発した。当時の経済成長と格差社会に焦点をあてた。社会を多角的に見るという見方を自覚的に運用する点に課題が残された。 これらの単元開発のうち、中1歴史の探究については、日本社会科教育学会(新潟大学、9月)で、中3歴史の熟考については、全国社会科教育学会(島根大学、11月)の研究大会で発表した。また、学校調査として富山県富山市立堀川小学校と長野県岡谷市立神明小学校を実施した。なお、3月の研究会は、新型コロナ感染症の拡大のため、規模を縮小して実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
小学校及び中学校のワークショップ型社会科の単元開発は、ほぼ予定通りに研究を進めることができた。中核概念と対話スキルに焦点をあてることで、内容(コンテンツ)を資質・能力の育成のための道具として位置づける多学年カリキュラムの構築にむけた研究をスタートできた。これは、内容(コンテンツ)を網羅することを原理としたカリキュラムの在り方を見直す理論的射程をもつものである。 他方、新型コロナウィルス感染症の感染拡大により、年度末に予定していた、児童生徒へのアンケート調査を実施できなかった。これは、社会科という教科で培う「有能さ」や「価値」について、学んだ開発単元との関係で児童生徒に尋ねるものであった。また、2019年度のまとめの研究会を3月8日に予定していたが、猪瀬武則日本体育大学教授に東京から参加いただくことがコロナ感染症の関係でできなくなり、規模を縮小して実施せざるをえなくなった。宮城教育大学附属中学校の守康幸氏による農業を主題とした政策提案型パブリックディベートを位置づけた新たな単元開発などの研究交流はできたが、個々の単元開発を、社会科カリキュラム全体に位置づけて吟味する検討については、次年度以降の課題として残された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2(2020)年度は、次の3点について研究を進める。 第1に、開発単元を昨年度実施した児童生徒の学年について、実施できなかったアンケート調査を今年度の当初に実施できるようにする。新型コロナ感染症の拡大状況にもよるが、なるべく簡潔なスタイルの質問紙にすることで、研究計画で予定していたデータの収集に努めたい。 第2に、実験授業への協力については、授業を実施する学校の教育課程との調整になるが、次の単元の開発と実施を行う。小学校では、4年で環境負荷を中核概念とした飲料水と廃棄物の処理の単元開発を行う。人間の生活や産業と環境保全との相互関係を「熟考」する対話スキルを組み込むようにする。。5年では、分業と交換を中核概念とした工業の産業学習の単元開発を行う。そこで学んだ見方・考え方を、農業の産業学習の課題について考える際に働かせる単元の連動を位置づけることを試みる。 中学校では、中2歴史で、「説得」の対話スキルを位置づけた明治元老院の徴兵令改正ディベートのジャッジの単元、「熟考」の対話スキルを位置付けた明治維新の人物ランキングの単元、「探究」の対話スキルを位置づけた地形と築城の関係を考える単元、「交渉」の対話スキルを位置づけた条約改正交渉の単元を実施する。実験授業は、山形大学附属小と附属中を予定している。 第3に、学校調査と研究のまとめについてである。学校調査については、児童生徒のインフォーマルな知識を組み込んで知識の質的向上を進めている富山市立堀川小学校と岡谷市立神明小学校の実践を引き続き、調査する。研究成果のまとめについては、全国社会科教育学会(10月、鳴門教育大)と日本社会科教育学会(11月、筑波大学)の研究大会で発表を行う。年度末の3月には、本研究の到達点と課題を明らかにするための研究会を山形大で開催する。猪瀬武則日本体育大学教授ほかを招請する。
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Causes of Carryover |
(理由)2019年度は、初年度のため、実験授業についてひとつのグループに焦点をあて、そのグループの児童生徒の変容をを継続的に映像記録におさめた。そのため、複数のグループを同時に記録する必要がなかったため、その分のビデオカメラの整備分が未使用となっている。また、新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴い、3月の研究会に、東京から猪瀬武則日本体育大学教授を招請できなかった。その分の旅費と謝金が未使用となっている。 (使用計画)2年度目以降は、実験授業分析のフレームが整ったため、複数のグループのデータを収集するためにビデオカメラをさらに整備して研究に取り組むようにする。また、2年度目の研究会では、猪瀬武則日本体育大学教授および熊田亘筑波大学附属高等学校校長を招請して、コンピテンシー・ベイスの多学年社会科カリキュラム(小中高を横断した社会的見方・考え方と汎用的スキルの育成)についての検討を進める。
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Research Products
(3 results)