2021 Fiscal Year Research-status Report
軽中等度難聴児の学童期課題の発生の機序と言語発達支援要件の検討に関する研究
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19K02903
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
廣田 栄子 筑波大学, 人間系(名誉教授), 名誉教授 (30275789)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大原 重洋 聖隷クリストファー大学, リハビリテーション学部, 教授 (90758260)
中津 真美 東京大学, バリアフリー支援室, 特任助教 (90759995)
野原 信 帝京平成大学, 健康メディカル学部, 講師 (60720836)
岡野 由実 群馬パース大学, リハビリテーション学部, 講師 (60785393)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 軽中等度難聴児 / 人工内耳装用児 / 新生児聴覚スクリーニング検査 / 言語発達遅滞 / 家族支援 / 心理社会的課題 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年では、新生児期に軽中等度難聴(MMHL)が診断されるようになり、日常会話に支障がないが就学後の教科学習や言語発達等への影響と介入の必要性について十分明らかにされていない。本年度の研究では、①MMHL幼児・学童(5~8歳)12例について,言語発達の諸側面と、会話相手の感情推測など語用能力について幼稚園児34名と比較して検討した。MMHL児は語彙理解良好であったが構文・語用発達で遅滞を認めた。感情推測能力は就学前に未熟であっても6-7歳で向上し、遅滞例では背景に構文発達に課題がみられた(研究1)。 また、②幼児言語の後期発達として連続絵等を物語るナラテイブ発達尺度を用いて、早期より介入したMMHL児/高度難聴児各5名計10名(5~11歳)の発話を構造的に分析し、幼稚園年長児と比較した。その結果学童期MMHL児の発話は幼児段階にあったが、幼児期後期から学童期にかけて改善傾向を示した。高度難聴児よりむしろ課題は看過され構成要素の使用が乏しい状況にあった(研究2)。 さらに、③高等教育段階のMMHL学生7名と人工内耳装用(CI)学生8例について聞こえ主観的評価(SSQ-12)、および心理社会的困難評価を行たところ、MMHL学生はCI学生より音質識別に課題は感じないが、音声理解・戸外音の聞こえで困難を訴え、軽中等度難聴でも傾聴努力を要していた。心理社会的側面では、難聴開示、自己同一感形成、コミュニケーション不全、心理的防衛に困難を示し、大学での情報アクセス等には小児期から障害理解の支援が必要といえる。 ④新生児期の難聴診断後の家族15名については、エジンバラ産後うつ評価値は、標準値より高く療育支援により改善傾向を示した。本年度の研究では、MMHL児の学童期課題の実態と背景となる就学前後期の発達課題が示され、診断後の継続した支援体制の必要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染拡大と予防的対応により、調査実施の協力と受入れが困難な状況となり、対象児数が限られ研究進捗に遅れが生じている。そこで、次年度に向けて研究すべき課題を厳選し、実施可能な形式での研究計画を検討し、対象児数を拡大した実態と大局的な臨床指針が導けるよう修正する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、新型コロナ感染予防により学童期施設での実態把握調査の実施が困難な状況にあり、広域の調査協力には制約が生じていた。そこで今後は、今年度までに得られた資料を解析して残された課題を厳選した上で、社会調査法により実態調査の対象者数を拡大し、大局的な資料を得られるよう研究協力依頼を行う(研究1)。 また、MMHL児の幼児期後期の言語発達課題としてのナラテイブ発達評価については、これまで開発した評価法を用いて、学童期の聴力正常な学童のデータを採取し、MMHL児に長期的に残る課題を分析するための標準値を採取し、また、実施法(産生法・再生法)による影響とマクロ発達パタンの分析を発展させて、MMHL児の発達の特徴の検出について検討する(研究2)。 さらに、今年度までの研究で、MMHL児についても高度難聴児同様に、学童期から青年期にかけて、障害理解と心理社会的な課題が生じていることが明らかになった。そこで、高等教育期の高度難聴学生に調査を拡大し、MMHL学生との共通性と、固有性についての分析を行う。難聴による聞こえと情報アクセスの主観評価(SSQ-12)、および障害認識における課題と支援の必要性について検討する。また、家族の障害認識支援については、新生児難聴診断後の家族調査により、教育と医療施設との間の連携の効果を検討し、心理社会的な支援と家族属性の関与について事例的検討を行う(研究3)。 MMHL児の言語発達には個人差が大きく、早期支援によって学童期には概ね改善するものの、事例によっては、3~5歳児期に遅滞を示したり、その後のキャッチアップが乏しい状況から学童期の影響も見られた。そこで、これまでの研究結果に基づいて、MMHL児の幼児期後期から学童期に抱えるこれらの課題を検出し、早期介入および家族への必要な支援に関して研究協力者間で協議・集約を行う予定である。
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Causes of Carryover |
調査対象予定地域・施設における新型コロナ感染拡大と予防的対応により、調査実施が困難な状況になったため、研究進捗に遅れが生じ研究期間延長に至った。次年度の研究としては、MMHL対象児人数を拡大するために社会調査法に変更し、調査法印刷および郵送代が必要になる。また、調査受け入れ可能施設に調査協力を得やすいようにweb調査依頼を加え、聴力正常学童の家族調査については、データベース保有会社への委託も検討する。さらに、軽中等度難聴児と家族に固有の課題を解析するための事例的検討では、謝金を用意して研究協力への依頼を進める。得られた結果を踏まえて、本研究全体の目的である軽中等度難聴児の学童期の言語発達課題の発生の機序と言語発達支援要件の検討を行う計画であり、研究協議および成果交流・発表の旅費等が必要になる。
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Research Products
(20 results)