2020 Fiscal Year Research-status Report
読み困難リスクの早期アセスメントと支援方法に関する研究
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19K02957
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
雲井 未歓 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (70381150)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 学習困難 / 学習障害 / 平仮名の読み / 音韻操作 / 構音 / リスク要因 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、読みの学習困難リスクを幼児期から小学校低学年の段階で評価する方法と、それに基づいた介入(支援)の効果を明らかにすることを目的としている。今年度は主に(1)幼児における平仮名の読みと音韻操作スキルの発達的変化、(2)小学校低学年児における平仮名単語の読みと音韻操作スキルの関連、(3)小学生に対する単語読みの流暢性に対する定期的な介入(支援)の効果について検討を行った。(1)は、認定こども園の園児45名を対象に5歳時点と6歳時点での追跡的調査と分析を行った。その結果、5歳時から6歳時にかけての平仮名読みの習得に、撥音を主とした特殊音節に関する音韻操作スキルの獲得が関与する可能性を示すことができた。(2)については小学校の1年生と2年生424名を対象に平仮名の単語読みの流暢性と音韻分解および音韻抽出課題を調査した。その結果、音韻分解および音韻抽出課題のいずれかまたは両方で低成績を示す場合に、平仮名の単語読みの流暢性が低下するリスクが高いことを、1年生で認めた(オッズ比15.8)。2年生では、平仮名の単語読みの流暢性は音韻操作課題の影響を比較的受けにくいことが明らかになった。(3)は小学校1~3年生136名を対象に語彙判断作業課題と音韻操作課題を中心に構成したプリント教材を学級単位で10回実施した。この前後で行った評価を比較した結果、介入後の平均得点に著明な増大を認め、増大幅は1年生で介入前の約0.5標準偏差、2年生と3年生では約1標準偏差であった。この効果は介入前の時点で低成績であった児童とそれ以外の児童ともに認めることができた。これらより、ひらがなの単語読みに対する音韻操作の関与の特徴が明らかとなり、これに基づいた介入が有効である可能性は高いと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は幼児における平仮名の単語読みの習得と音韻操作スキルの基礎的調査を行ったのに対し、本年度は、対象を小学校低学年児に広げて単語読みの習得と音韻操作スキルに関する基礎的データを収集・整理した。この中で、音韻操作課題と平仮名読みの達成との関係を示唆する結果を得ることができた。このことから、研究計画の検討1「幼 児・低学年児の音韻操作の低成績とひらがな読みの関係」の主要部分について、おおむね目標が達成されたと指摘することができる。また、昨年度行った構音のスクリーニングに関する検討の結果は、引き続き分析を行い、論文発表が可能な段階に至っている。そのため検討2「音韻意識の発達と構音の発達との関連」についても、おおむね目標に到達しつつあると判断している。検討3「音韻スキルと平仮名読みへの定期的な介入」 については今年度、小学校1年生から3年生の136名を対象に行い、効果を確認することができた。次年度にはさらに対象児を増加して約250名での検討を行うことを予定している。従って検討3については小学生と対象として行う検討に関して、課題達成の見通しが得られたと指摘できる。他方、就学前の幼児を対象とした介入については着手することができなかった。これはCOVID-19の蔓延に伴い保育現場への訪問を見合わせる必要が生じたためであり、当初計画の一部の見直しも含めて今後の対応を検討することとした。以上のことから、本研究の遂行には一部に予期しなかった事態の影響が及んでいるものの、全体としては目標に向かって進んでいることから、頭書のとおり進捗状況を判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの検討により、平仮名の読み困難に対する早期のリスク要因について、構音の発達および音韻操作スキルの獲得の点から明らかにしてきた。また、これらを考慮したプリント教材による一斉指導の効果を、小学生で確認した。これらによるリスクの把握と介入によっても、十分な効果が得られにくい児童が一部認められた。この点については、一斉指導においてより個別化した教材を用いることと、少人数ないし個別の介入場面を設けて支援することの2点の検討が、早期予防的支援のモデル構築に必要と考えられた。そこで次年度は、(1)一斉指導において個々のタイプを考慮した支援教材を検討し、効果を確認する検討と、(2)強い困難あるいはそのリスクを示す事例を対象に、個別あるいは小集団の学習支援による介入を行い、効果を臨床的に明らかにする検討を行う。(1)については、方策として、今年度までに開発したプリント教材を発展させて、一斉指導で利用できるようにする。今年度の教材では多くの児童に効果を認めたが、介入前に低成績であった児童の中に、介入効果が明瞭でなかった者も一部認められた。この点の要因の分析を行うことにより、学習困難リスクへの介入方法を明らかにしていく。この場合、信頼性の高いデータを得るためにより多くの児童を対象とした検討が必要となるが、すでに複数の学校から協力を得ることができている。(2)については、来談事例への継続的な支援において検討する。これまでに得られた知見に基づいて、平仮名の読みと音韻操作スキルの学習課題をパソコン教材により作成・実施する。その際、児童の反応がコンピュータに記録されるようにすることで、学習経過を効果的に分析できるようにする。これらにより、平仮名の読みに関する早期予防的支援モデルの考察に必要な知見を揃えられるようにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた予算費目のうち、最も大きいものは旅費である。これは、COVID-19の蔓延に伴い、計画していた出張のすべてが中止となったことによるものである。次に大きいものはその他である。これには当初、評価用紙および教材の印刷のための費用を計上したが、予定時期に保育現場を訪問することが不可能となったため、今年度の実施を見合わせたことによる。また、人件費・謝金については学生アルバイトの雇用を見合わせた。翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画としては、主に今年度行うことができなかった学会への参加・発表を翌年に行うこととし、その経費に充当する。また、来談事例に対する学習支援を追加的に行う計画とし、これに必要となるパソコンと周辺機器の購入経費に充てることとする。
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