2020 Fiscal Year Research-status Report
参加型観測データの取得による科学的な地震防災意識の形成策
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19K03126
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
林 能成 関西大学, 社会安全学部, 教授 (90362300)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 郊外 / 地震災害 / 市民参加 / 常時微動 / 地盤改変 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、科学的な観測データの取得に参加する「市民観測」を導入することで都市郊外に居住する市民の当事者意識を高める参加型地震ハザードアセスメントプログラムを構築することである。本年度は地震・津波の複合連続災害に焦点をあてて、徳島県阿南市において文献調査および地図、空中写真判読といった地理学的手法で観測候補地をしぼりこみ、現地において予備的観測を実施した。 昨年度の研究で試作した観測マニュアルなどにもとづき指導することで、観測経験のない学部学生が1人で観測を計画・立案し、データ解析までの一連の手順が実行できることが確認された。何をターゲットとして観測点配置を決めるかという点については、ある程度の経験の蓄積が必要であるが、数回の観測を経験することで、自分なりの仮説を構築できる場合が多いことも明らかになった。 徳島県阿南市旧那賀川町地区では、旧河道の埋め立てなど顕著な地表地盤の改変が見られ、本研究ではその地盤改変の影響が地盤振動に与える影響を考察し、ひいては津波避難地選定に影響する可能性がないかを最終的な目標とした。新型コロナウィルス感染症の拡大により観測点の数を十分に確保できず、海岸線から主要集落までの広範囲の常時微動データを得るには至っていないが、小区域の解析では常時微動のスペクトル特性に微妙な変化があることがわかった。今後必要となる津波避難ルートに地盤条件を考慮するための精密な解析手法の開発とマニュアル化に着手している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画通り、過去の地震被害事例の中から郊外において造成された地盤と類似性のある場所で発生したものをリストアップし、文献調査および地図、空中写真判読といった地理学的手法で整理することができた。 「郊外」の地盤特性は、丘陵地と埋立・干拓地の大きく2つにわけることができる。この2年間で丘陵地型の樫原地区と、埋立・干拓地の那賀川地区モデル地区で観測データを蓄積することができた。 樫原地区では、現地調査ならびに100点を超える多点常時微動観測を実施した。この地区では地盤条件に大きな差異が見られないのに被害が特定の場所に集中する傾向が見られ、被害の集中した地区と周辺の被害がない地区をまたいだ観測を実施した。 那賀川地区でも、現地調査ならびに50点を超える多点常時微動観測を実施した。この地区では昭和20年代以降に段階的に低湿地の地盤改良を行い、土地利用を拡大したことが明らかになり、その変遷をとらえるような観測を実施した。当初の計画では、地震による震動によって引き起こされた災害直後の津波高台避難の可能性も視野にいれた評価方法を検討したが、新型コロナウィルス感染症の拡大によりフィールド調査に制約があったため、この部分について次年度に持ち越しとなった。 観測および解析マニュアルの整備ついては、2年目に1年目に作成したものをブラッシュアップした。さらなる改良を進め、真に「参加型」として観測および評価ができるものをめざす。
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Strategy for Future Research Activity |
この1年間はフィールド調査の実施が難しい状況が継続しており、データの蓄積と一般市民への観測経験拡大が困難であった。今後もこの状況は大きく変化するとは考えにくく、不特定多数の人間の接触は避けるべき状態が続くと考えられる。そこで、これまでの観測データの再解析を進めつつ、長距離の移動を必要としない地域で、少人数の観測班への指導を通じて、参加型観測データの取得による科学的な地震防災意識の形成策の完成をめざしていく。 具体的には大阪府と通勤・通学で日常的に人が行き来する範囲でモデル地区を選定し、これまでの2年間に蓄積した観測実行のノウハウを応用した実践を行う。複数の観測機材を用いて、地域内に連続観測データを取得する拠点を設置して、自然地震の観測と近隣にある公開されている地震計との比較を通じて、地域の地震特性を把握する試みを追加する。 本年度完成したマニュアルによって、データの回収、基礎的な解析、出てきた結果の解釈までは専門家の手を借りずに一通りの作業ができるようなった。今年度は、観測計画を立案する部分を完成させて、市民観測におけるPDCAサイクルを完結させるための取り組みを積極的に進める。 また、特に国際学会への参加が難しい状況が継続する事態を鑑み、論文として成果を公表することを優先する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の拡大による緊急事態宣言発令などによって、フィールド調査の実施が困難な状況にあった。また、学会もオンライン開催になったために、旅費を使用することがなかった。今年度はフィールド調査の対象地域を精査して、フィールド調査が実行できるようにする。
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