相互作用型物理授業を有効にするファシリテーションの検証と自己学習能力の育成

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 19K03138
• Research Institution: Tokyo Gakugei University
• Principal Investigator: 植松 晴子 (小松晴子) 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (70225572)
• Project Period (FY): 2019-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: 相互作用型物理授業 / ファシリテーション / 動機付け / 学習姿勢 / Learning Assistant

Outline of Annual Research Achievements

1. 平成23年から令和元年まで実施した相互作用型物理授業の発話記録の分析
学生間の議論とファシリテータとのやりとりを文字起こししたものから，学生のもつ困難とファシリテーションの方法をリストアップし，ファシリテーションによって学生の思考が進展した場合とそうでない場合の分類を継続的に試行している．
2. 実践した教材と授業展開の分析
学生のワークシートへの記述，ビデオ記録，授業実践後のファシリテータの記録から，①教材の構成そのものが学習への動機づけとして有効に働いていない場合，②教材の文脈を学生が読み取れていない場合などが明らかになっている．加えて③概念によっては定着が難しく，繰り返しの働きかけが望ましい場合も考えられた．①については，学生の実際の発言などを教材に取り入れ，動機付けにより配慮したワークシートの修正を行っている．修正の際には，それによって他の要因や誤解を誘起することのないよう，また引出せる素朴概念に影響のないよう配慮している．②については，教材の文章を精査するとともに，ファシリテーションの中で文脈を意識させるように，ファシリテータの研修で徹底している．③については，教材全体の構成を見直し，対象となる概念を配置する修正を試みている．
3. 主体的に学ぶ意義を学習者自身に意識させる取り組み
学生の議論や記述では，与えられる「正解」に合わせた思考ではなく，持っている情報から自分で論理的に考える姿勢を一貫して評価している．また，専門性の高い大学院生によるTeaching Assistant(TA)とは別に，同一授業の受講生をLearning Assistant(LA)として，議論の司会進行の役割を与えることを継続的に試みている．令和2年度に続き3年度の遠隔授業下では，LAに対して学生の消極的な姿勢がみられ，対面授業における学生の自覚向上やグループの議論の活性化は限定的であった．

Current Status of Research Progress

4: Progress in research has been delayed.

Reason

ファシリテーションの評価を系統的に行う指針を得るために，関わり方の分類を試みているが，未だ確立していない．引き続き検討する．
令和2,3年度は，それまで対面で行っていた相互作用型授業をコロナウィルス感染症のために遠隔で行わざるを得なかった．遠隔での様々なツールを用いて相互作用型物理授業を実践したが，各グループでの活動が完全に閉じており，授業者が学生の様子を把握するためにクラスでの共有の時間を設けたこともあって，ファシリテータが十分関わることができなかった．また，これまでの実践の分析から得たファシリテーションの指針を試みる機会がほとんど得られなかった．
学習者に主体的学びの意義を意識づけるために，LAの導入は有効であることが期待されるが，上記のように完全に閉じた形でグループでの活動を行っていると，LA制度によって他のグループとの交流があることを嫌う様子が見られ，対面の授業と比較して積極的な取り組みが大幅に減少した．また，標準的な概念調査問題は，問題の流出をさけるために遠隔での実施が難しく，新しい試みに対しても授業形態の違いに対しても効果を測ることができない．
ワークシートの大幅な改訂を試みる対象の分野については，その効果を的確に測るための概念調査紙として適当なものが見つからず，令和3年度は独自に概念調査紙を開発するように計画を修正した．

Strategy for Future Research Activity

相互作用型物理授業の発話記録によるファシリテーションの分析は，継続的に進める．
令和4年度に実践対象の授業を対面で行い，動機付けにより配慮したワークシートの修正の効果を，事前事後に行う概念調査紙で評価する．教材や授業実施の手立ては，過去2年の遠隔によって新しいものが見出され，対面授業にも有効と考えられるものがある．過去のデータと比べることで，その効果を測る．定着が特に難しい概念については，全体の構成を見直し複数回扱う設計を試みる．
学習者に主体的に論理的思考をする姿勢は，引き続き強調して評価する．令和4年度は，対面授業でのLAの効果を再び確認できる見込みで，ファシリテータによるグループワークの評価によってLA導入の影響を調査する．また，LA導入の前からグループ内に司会役を設定することを促して，議論の進行役としてのLAの円滑な導入を目指す．

Causes of Carryover

(理由)
対面授業を計画していたが，コロナ禍のため遠隔授業となり，ファシリテータが関わる機会が大幅に減った．研究計画を修正して，教材の構成に課題があるものの修正に注力したため，学生間の議論とファシリテータとのやりとりの文字起こしが進まなかった．そのため，謝金の支出が当初予定より少なかった．国際会議・国内会議への参加を予定していたが，コロナ禍のため会議が遠隔での開催となった．そのため，旅費の支出がなかった．
(使用計画)
令和4年度は実践の対象となる授業を対面で行い，十分な数のファシリテータを参画させる．学生の議論やファシリテーションの記録のデータを増やす．分析は継続的に行い，ファシリテーションの評価の指針を立てる．教材の構成に課題が見られたいくつかの分野については，大幅な改訂を行い，概念調査紙等で評価する．